第13章 Ti desidero.【ジョルノ】
チヒロは困っている。
とにかく本気でどうしようもなく困っている。
もちろん というか やはり というか、分かりきった原因はジョルノであった。
理由は先日の一件以来、彼の態度が急激に大胆さを増したからに他ならない。
まず、とにかく距離が近い。
ソファで隣に座る時も、会話する時も、ジョルノは少し動けば触れてしまうんじゃあないかという位置にわざと陣取り、こちらの反応を眺めている。
綺麗な瞳にじっと見つめられるだけでも落ち着かないのに、近づかれる度に花のような甘い匂いがふわ、と漂って、チヒロはどうしてもドギマギしてしまう。
次に、"近い"で済まない場合が増えた。
あのイタリアーノ発言は完全に失敗だった、と彼女は思う。
おかげでジョルノは「僕はイタリアーノですからね」という免罪符を得て、"イタリア式スキンシップ"を激化させた。
歯が溶けてしまいそうな褒め言葉の数々に、親愛のハグ。ふとした拍子に握られる手。髪への口付け。
挨拶がてらに手の甲にキスされるなんてものはしょっちゅうで、とてもじゃあないが控えめな東洋人の彼女は平静を保ってなどいられない。
そして最後に、あまりにあまりな直球を投げ込まれた。
日頃のジョルノの行動に耐えかねた彼女は、遂に──本当にやっとの事で──彼にこう告げたのだ。
「あのねジョルノ、私達は同じチームの仲間だけど、気軽に振る舞いすぎちゃあダメ。
こういう事は恋人同士とか、ちゃんと…好きな人にだけするものよ」と。
突然かけられた言葉に、握ったチヒロの手もそのままに目を瞬かせていた彼は次の瞬間、それはそれは爽やかな笑みを浮かべると信じられない台詞を放ってよこした。
「なら問題ありませんね。僕は貴女が好きですから」