第12章 Regalo【アバッキオ】
「あの、アバッキオ……お、お誕生日おめでとう。その、あの…、ッ、これ!私から!」
そう言って、真っ赤な顔で包みを差し出す。
戸惑いつつも、オレは丁寧に包装された箱を受け取った。
開けてみろよ〜ッ、というナランチャの声が続き、そろそろとリボンを外しにかかる。
「その、私、お…男の人にプレゼントなんてあげた事が無くって、何がいいかとか全然分からなくて……でも、アバッキオにはどうしても何か渡したくて、それで…」
消え入りそうなチヒロの言葉が終わると同時に姿を現したのは、空のように美しい青をしたヴェネツィアングラスだった。
どこまでも透き通る青。
グラスの縁には図案が繊細に彫り込まれ、持ち手の部分は上品な金箔加工が為されている。
派手すぎず、けれども地味すぎず。
全てが程良く自分の手に馴染んだ。
一目見ただけで、チヒロが真剣に悩んで悩んで、考え抜いて選んだものだと分かった。
「何がいいか、私1人じゃあ決めきれなくて…皆に相談させてもらったの。一体何を贈ったら、アバッキオが喜んでくれるかって」
グラスから顔を上げると、うるんだチヒロの瞳と視線がかち合った。
ぎゅっと唇を噛みしめ、オレの言葉を待っている。
「……ああ、気に入った。ありがとよ」
笑いかけると、彼女の顔にも満面の笑みが広がった。
「よォーーし!そんじゃ今日は"お祝い"っつぅー事で!食うぞォ〜ッ!」
「おいミスタ、今日の主役はアバッキオだぞ」
「わーってるよ、大丈夫、白ワインもルッコラのサラダもピッツァ・マルガリータも頼むって」
「そういう事じゃあないッ!」
あっという間に賑やかになったテーブルに、料理が運ばれてくる。
オレの隣で、チヒロが春のような笑みを浮かべる。
……そうだな、年に1度なら、こういう日も悪くねえ。
END
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2020.03.25
Buon Compleanno! Abacchio!