第12章 Regalo【アバッキオ】
それからしばらくして、今度はチヒロが他のヤツらとコソコソ話しているのを見かけるようになった。
最初の相手はブチャラティだった。
はじめは仕事の確認でもしているのかと思ったが、それにしてはどうも様子が違う。
チヒロは一生懸命に何かを説明したり、口元に手をやって黙り込んだり、時には縋るようにブチャラティの顔を見上げたり。
対するブチャラティは、彼女と一緒に考え込んだかと思えば、今度は優しく微笑んで諭すように語りかけている。
どんな話をしてるんだか分からねえが…まあいい。なんといってもオレ達は忙しい。アイツが何か、ああいう風に話したくなる事もあるだろう。
「…ブチャラティはオレ達のリーダーなんだからな」
誰に言うでもなく呟いて、オレは自分を納得させた。
だが、翌日。
今度はフーゴとチヒロがゴニョゴニョやっているのを見つけた。
2人してソファに腰掛けて、ごく小さな声で何かを囁き合っている。互いの声が聞き取りにくいのか、随分と距離が近い。
チヒロは意識していないのかもしれないが、半分フーゴに寄りかかりそうな勢いだ。
というかフーゴもフーゴだ。
お前もうちょっと、気を利かせて間を空けるとか何とかできねえのか。
更に腹立たしいのは、2人がオレに気づいた途端にパタリと会話を止める事だ。
「あらアバッキオ、お疲れさま。そうだわ、フーゴも…ええと、そう、コーヒーでも淹れましょうか」
チヒロが突然立ち上がったかと思うと、また曖昧に笑ってキッチンに向かった。
この場から逃げ出したのと、先のやり取りを誤魔化そうとしているのは丸分かりだ。
フーゴのヤツはわざとらしく手に持っていた本に目を落として視線を合わせようとしない。
…何なんだ、一体?
かなり気分が悪かったが…その場で2人を問い詰めるのはどうにも躊躇われて、結局オレは黙ったまま、差し出されたコーヒーを受け取った。