第8章 Vino bianco【アバッキオ】
「──だったの!ヒドいと思わない?」
「そーかよ、そりゃ災難だったな」
相槌を打ってやると、チヒロはでしょう、と満足げだ。
正直オレの言葉はかなり適当なものだったが、それを判別するだけの冷静さは既にないらしい。
任務も完了して皆帰ったアジトは静かで、酔って大きくなったチヒロの声がよく響く。ここでこうしてソファに2人並んでグラスを傾けるのが、彼女が"愚痴る"時の恒例だった。
…まあ、相手がこのザマじゃあ、色気も何もあったもんじゃあねえがな。
中身が半分ほどに減ったボトルをちらりと見る。オレはどうって事ないが、何せコイツはあまり酒に強くない。すっかり頬を赤く染めて、とろりとした目で、それでも次から次へと喋り続ける。
ポルポから振られた任務内容があまりにも無茶だった事、街で新たに発生した問題の事、オレがジョルノに冷たい事、フーゴとナランチャがいつまで経っても喧嘩をやめない事……
よくもまあこんなに話題を思いつくもんだ、と思うが、毎回こいつが最後に話すのは決まって─────ブチャラティの事だ。
「だって、普通は気づかない?イタリアーノって皆そういう事には鋭いと思ってたわ」
「…さあ、どうだかな」
「ああやっぱり、直接言うしかないのかしら…"あなたが好きです"って」
その"あなた"がオレの事なら─────なんて、一瞬よぎったのはあまりにも馬鹿な考えだ。
頬杖をついてため息をつく横顔から思わず目をそらす。心臓を握り締められたような感覚に眉を顰めた。
見ちゃいられねえ。…他の男に恋するチヒロの顔なんざ。