第97章 花(華)の屋敷 15

　サトシ「あぁ…… しかし…… 私を宿した後も、太郎様は変わらず母を…… 待って居て下さった。そして父に私を託し、母は 太郎様の元へ…… しかし、その幸せは……」

　カズ「……長くは続かなかった。呉服問屋に嫁いだ、さわさん。しかし太郎さんがその十二年後に、病に倒れ帰らぬ人に……」

　サトシ「なぜそれを？　私は幼き頃、父から母の幸せを願って別れた。と。全てを受け入れた様に穏やかだったんだ。けど、十二年前から仕事しながらもどこか、情のこもった感じが見受けら無くなって…… 一年前家業継ぐ際、世間と同じ思い込みから、『そのような家業を継げない』と告げると泣きながら母の話を全て話してくれたのだ。だから私は継いで、その想いを守って行こうと決心したのだ」

　カズ「私の母は、花町の出身だった。呉服問屋の父は、二十三年前、母を貰い受けた際に、昔気質な祖父と祖母は猛反対を。その気持ちは分からぬではないが…… 母は苦労したと思う。はっきり言って酷い祖母の嫌がらせにも耐えて。一年後に私が生まれました。その中、仕事も完璧に覚え、自ら着物を縫う技量も身につけ、家だって立派に繁盛させました。それでも祖母は、父が十二年前病で倒れ、自身も亡くなるまで私に…… 母が花町の出身である事、花町の悪い噂や、様々なことを私に…… おかげで私も嫌悪感が生まれ、生涯通わぬと誓ったくらいだった…… ついこの間迄、知ろうともしなかったのです。私は……」

　マサキ「どういう事？」

　ジュン「それは…… 今ので、分かりませんか？　マサキ様は？」

　ショウ「擦れ違い…… か…… サトシのお父上はさわ様の幸せを願い、サトシには詳しい経緯を話さなかった。しかし十年前太郎様が亡くなった時、さわ様と別れた事を後悔したのだろう？　さわ様の願いである娘達の幸せを、なぜに家業を継いでほしいか？　彼の想いを伝えるようとせなんだ。だから、本当の真意を知らなかったサトシは…… カズ様、さわ様の想いを知ろうとしなかった事を後悔していらっしゃるのですね？　太郎様の素晴らしさを伝えようとした、さわ様。しかし周りがそれを許してはくれなかった…… 」