第1章 めるめるあっといけぶくろ
池袋のアニメイトを君と歩く、人混みの中で
一人だけが箔押しのキラカードだ。
黒い髪毛をなでると恥ずかしそうに微笑う。
八重の歯がこちらを覗く。
今までより強く手を握るとまた下を向いた。
喫茶店に入る。知らない名前のフラペチーノを注文する君を
初めて頼もしく思えた。
街は黒に変わり、君の髪はビル谷に溶ける。
バッグの缶バッヂがきらめく。
駅前の居酒屋で、濃度が高まるにつれ饒舌になる。
時計が2周して、ぺしゃんこになった君を抱えて駅へ向かう
電光掲示板は空だった。
しかたなく、言語でない言葉を放り出す君を先に
後部座席に載せ、左となりに座る。
先に着いて降ろそうとすると、腕にしがみついて離れない。
仕方なく料金を払い、105号室に歩いていく。
しがみつくロングコートのポケットからキャラクターストラップの鍵を取り出し開ける。
明りを点ける前に崩れ落ちた生物の靴とコートを外し、
ベッドに運ぶ。
ベッドの上の大量の洋服をよける。
同じ体勢になり目を閉じると、
「好き」と聞こえた気がした。
・・ ・
目が覚める。キッチンに立つ君がこちらに挨拶をした。
喉が渇いて声が出ない。
奴はいつも翌朝強い。悔しくて少し睨むと無邪気に笑う。
こちらに歩いて来てテーブルに米と味噌汁を置いた。
國民的朝喰を流し込むと斃れた。
見かねて布団を掛けられる。これでは昨日と真逆だ。
気づくと君も横で寝ていた。
君の肌。ベランダでは小鳥が遊ぶ。
アイラインをなぞる。
まぶたの柔らかい感触、喩えようがない。
小さな小さな寝息を聴く。
果実の香水。五感満足の幸福をいっぱいに享受する。
昨日の熱が嘘の静けさ、穏やかなアイボリー。