上手な生き方【ONE PIECE・ロロノア・ゾロ】
第4章 鬼の住処にいる蛙
「オイ、ちょっと待て」
息子との約束を守ると頑ななゾロを見て、もう行こうとルフィのシャツを引っ張った時_後ろから声がかかる
「なによ」
「それ、とってくれねぇか...」
少し語意を強めてゾロを見る
ゾロの視線の先には、さっきの女の子のおにぎりが落ちていた
ハッ、としてゾロと地面に落ちているおにぎりを見比べる
_コイツもしかして、これを食べる気...?
それはもう、おにぎりと呼べる代物ではなく、モーガン大佐の息子によってグチャグチャに踏み潰されて泥のようになっていた
私は丁寧に地面からおにぎりだったものを拾い上げて手のひらに乗せる
なるべく不要な土や砂埃を払って、白い部分を探した
「食うのかよこれ、もうおにぎりじゃなくて泥の固まりだぞ」
「ガタガタぬかすな、おい、お前_黙って食わせろ。落ちてンの全部だ!!」
呟くように言ったルフィにゾロは叱責するように怒鳴った
私はグローブを付けた手のひらに乗っているおにぎりの塊を、大きく開かれたゾロの口の中に放り込んだ
バリバリッ、という砂混じりの咀嚼音が聞こえて、思わず眉が下がる
私は、ゾロに「海賊は皆が皆悪党ってワケじゃない」と言った
けれど、私はゾロを初めから悪党だという風に見て、悪党というように接した
その矛盾に自分の心の弱さを感じて、ギチッと唇を噛む
根拠もないのに、人の価値を決めるなんてなんてこと...!
_この人はこんなにも優しい心を持っているというのに
「ロロノア・ゾロ...」
私が心配してゾロの顔を覗き込んだとき、彼の口元がゆっくりと弧を描いた
「...あ、あのガキに伝えてくれねェか_うまかった、ごちそうさまでした...ってよ」
その言葉にルフィも嬉しそうに笑う
私も、思わず涙の滲む眼を必死に抑え込んで、コクリ、と一つ頭を縦に振る
コビーの言っていた"人の姿を借りた魔獣"が、今はどうしようもなく、普通の心優しい男の子に見えた