第13章 だから交わる ――彼の場合――
『……ッまだだっ!!!
――−ッ2時の方こ…‥!!』
ヒーローコスチュームを身にまとった男は、ひどく冷静に自身の置かれた状況を把握した。
体中が痛いのは確か。
しかし、ほのかに快楽を貪った後の多幸感も感じる。
(俺ってそっちの気があったん、か……)
疑問に疑問をぶつける終わりの無い討論会はそんな結論で閉会していった。
顔を横に向けると普段は足元にある固いコンクリートが右頬に当たる。
(なん、だよ……ありがちなやつだな)
多種多様の情報が脳内を行き交う。
分析は苦手だ。
しかし不測の事態においては別らしい。
ついつい意外な己のポテンシャルに感心してしまった。
(あ、れだろ……映画とか小説の中で、始まってすぐ退場するヤツ……。名前も出なくてよ。まさにそれじゃん、か、俺)
力を絞り絞って腹に手をやると、この先の未来を安易に想像できた。
雨なんか降っていないのに視界にとらえた赤色の水溜りが余計にそう思わせた。
(すっげぇー……こんなんならんだろって思っ、てたのに、走馬灯…ってやつだよな)
思い出が断片的に浮かんでは弾けて消えていく。
あぁ、ヒーローになる前に荒れていた自分がいる。
思い通りいかなくては癇癪を起こして、周囲に謝る両親の後ろ姿を見ていた頃の。
訳の分からない虚しさだけを募らせていた自身を。
(……馬鹿が馬鹿みてぇに、必……死こいて人生大逆転、ヒーローになったってのに、救助以外の初出動で…コレか、よ)
視界を乱す塩味の効いた未練が頬を伝って、鉄の味が広がる口内で共に混ざりあう。
あぁ、こんな事だったら虫歯を気にしてキャラメルを食べた後に歯磨きなんてするんじゃなかった。
そしたら舌で歯をなぞれば甘美な味を堪能できたかもしれない。
そんな事が普段なら可笑しくもないのに、やたら可笑しく思える。
(………へへっ。やっぱ俺なん、か…が次のオールマイトになれる訳……ねぇん、だ……よなぁ……)
長い眠りが近づいてくる気配がする。
(……どっかいけよ)
『……ズッ……死にだぐ…ぇ、』
何……見てんだよ