第3章 惚れたら負け
「お疲れ、蛍くん」
さっきまで三年のマネに説明を受けて可愛くウンウン頷いてたはずの荻原が気がつけば隣にいたから、それはびっくりした。
心臓が止まるかと思った。
いや、それもありかも。
というか蛍くんって何。
呼び方に殺される、死にそう。
蛍って言う名前でよかった。
名付けてくれた父親と母親に感謝してる。
あ、僕の名前って荻原に発音されるためだけに存在したのか。
たまにホタルと読み間違えられてイライラしてたのは過去の話。
もうケイでもホタルでも荻原に呼ばれるならどっちでもいいしどうでもいい。
「いいなあ、これカッコイイ」
荻原が僕のジャージの袖をクイ、と引っ張る。
なんていうか、可愛らしい。
「そう?別に普通デショ」
「ええ?カッコイイよお、ほらこの配色とか。なんか後ろの排球部、って言うのもカッコイイ。
野球とか蹴球とかだったらなんか普通って感じだけど、排球ってカッコ良くない?
ハイキュー!って感じで」
「何それ、意味わかんないんだけど」
いや、可愛すぎるから自重して欲しい。
なんだその微妙に舌足らずなハイキュー、って。
死ぬほど可愛いから死ぬ。
「あ、でもバスケとかもカッコイイよねえ、実は籠の球って書いて籠球なの。カッコ良くない?」
「...君の言ってること、イマイチわかんない」
意味不明に可愛い。
え~わかってよお、とか口を尖らせてるのが最強に可愛い。
荻原が少し強めにジャージを引っ張って、羨ましそうに見上げる。
「これ、マネージャーにはないのかなあ」
とか言って、荻原がシュンとし始めた。
シュンとする荻原も可愛いけど出来れば笑っていてほしい。
「...あげる」
「え?」
アホみたいに驚く荻原にとりあえずジャージを脱いで肩に掛けてみる。
ジャージにジャージという可笑しな格好の上に恐ろしくサイズが合っていなかったから笑えたが、彼女の間抜け面の方が更に笑えた。
「ええ、これ蛍くんのでしょ、もらえないよ」
「なんで、キミが欲しいって言ったんデショ」
「え、待ってこれ冗談じゃなくてマジなの?
いや、欲しいって言ったけどそこまで本気じゃないって。
貰えないしサイズも違うしとにかく貰えないから」
私が着たらワンピースみたいになっちゃうよこの上着~とか言って脱ごうと手を掛ける。