第7章 迷える子羊
「失礼しまーす」
ここは、スパイク練というより、ブロックとレシーブがメインなのかな。
音駒高校の面子と、後は、
「……羽奏」
只管スパイク練をしていたらしい”彼”の手からボールが落ちて、猛禽類を思わせる金色の瞳が私を映す。
あの時と変わらない銀色メッシュのツンツン頭。身長は、かなり伸びたんだね。
「木兎さん、羽奏さんと知り合いだったんですか?」
京治先輩が梟谷学園のバレー部だったことは驚いたけれど、正直、それどころじゃない。
「………光ちゃん」
出した声は想像以上に震えていた。
無意識に制服の胸元を握り締めて、一歩、二歩後ずさる。
「なんで」
大股で歩み寄ってきた光ちゃんが私の手首を捕まえて引き寄せ、ギラギラとした視線で私を射抜く。
「なんでお前がこんなとこにいんだよ!」
握られた手首はギリギリと痛いけれど、それよりも、光ちゃんの声のほうが痛い。
目をそらすことも出来ないで、はくはくと口を開閉させ、結局のところ、私が光ちゃんに言えることなんか一つもないのだ。
「ごめんね」
返した言葉は、誰が聞いたって答えになっていないことが明確で、当然、光ちゃんが納得するはずもなかった。
「『ごめんね』って何だよ!!俺はっ、そんな言葉が聞きたいんじゃねぇよ!」
光ちゃんが激昂して私の胸倉を掴み、体育館のドアに押し付けて、空いたもう片方の手で思い切り私の頭の横を殴る。
足が床から浮いているせいで息が苦しくて涙が滲むけれど、光ちゃんの表情も泣きそうなくらい歪んでいて、抵抗なんて無駄だけれど、そうでなくても抵抗する気なんか起きなかった。
「ちょ、おい、木兎!!離せ!!!」
「木兎さん!!」
突然の事態に固まっていた面々が硬直から溶け、光ちゃんを私から引き剥がす。
そうすると私は床に落とされるわけで、広がった気道に空気を取り込んで咽ることになる。
床に蹲る私の背を誰かが擦ってくれているようで大変有り難いが、
「っ、けほっ、すみ、ません。こほっ、失礼しますっ」
無理矢理に立ち上がって、周りの面々の視線全てを無視して体育館を後にする。
「ごめんね、光ちゃん」
最後に見えた光ちゃんは、両脇を抱えられて俯いていたから表情なんて分からなかったけれど、光ちゃんが声を掛けてくることも追いかけてくることもなかった。
あぁ、何でこんなとこにいるんだろう。