第11章 珪線石の足音
旅館に到着すると結界のおかげか妖怪達の気配も消え、更には二人用温泉が貸切ということで広々と大浴場を使わせてもらえるそうだ。
それを女将さんから聞いてからというもの、うちのお嬢様の様子が……可愛らしいことになっている。
「リアちゃ『ひゃい!?♡あ、な、なぁに??』ああ、荷物ここに置いてるからな?」
『……なんで中也さんが全部持ってたの?あれ??』
「おまえに持たせるわけないだろ俺が」
部屋に入ってから尻尾振れんの止まらねぇなおい、そんなに嬉しかったか貸切が。
幹部権限だし当然っちゃ当然なんだがな。
『じゃあもう抱っこできる?』
「……おう、そんなにしたかったの。おいで」
ぴく、と耳が立って、こちらに数歩近付いてきてから恥ずかしそうに尻尾を揺らしていらっしゃる。
たまらなく可愛らしいのでそのまま抱き上げてみると、すぐにへにょりとそれらを垂らして甘えてきた。
『リア旅行初めて』
「!……ばぁか、全然近場だよ。旅行した事ねぇのか、どっか遠出する?」
『え、っと……できたらいいね』
保証が出来ないとでも言いたげな言葉。
「行くんだよ」
『中也さんがいてくれるなら本当にできちゃうかも』
「そうそう、それでいい」
『……中也さん』
ん?とできるだけやさしい声色になるように返すと、喉まで出かかった言葉を飲み込んで、言葉を選び始める。
『なんでも……えっと、………………ま、“また”言うね』
「おまえそれ俺に気使ってない?」
『うっ』
「なんだよ、俺に叶えられないことの方が少ないと思うけど?」
『……だから、全部おわったらちゃんと言うよ』
それはいったいどれだけ時間を経た後の話なのだろうか。
どこまで見据えての言葉なのか、分からないがまあ、いいだろう。
「それまで嫌でも俺に付きまとわれる覚悟はしておけよ」
『!』
手を取って口付けると目が据わる。
まずい流れだが、そのまま寝室に入ると……まさかの布団が夫婦仕様。
まあいいんだがな???
「微熱あるのに俺にそんな顔してるリアちゃんは可愛がってやらねえとなあ?どうしてやろうかほんと」
そこに寝かせて組み敷いて、腹部に触れると腰を引いて避けようとする。
「こーら、何逃げてる」
『だ、だって中也さんのそれ気持ちぃから』
ならいいじゃねえか、と服を緩めて素肌に触れた。