第10章 お別れ
やっぱりに別れを決意させたのはサン・マロウの一件なのだと気づいて、自分を八つ裂きにしてやりたくなる。それがなければ、はまだ「お別れしたくない」って悩んで、少しでも先に引き伸ばせたかもしれないのに。
『……くよくよしても仕方ないね。もっとキャプテンに釣り合う大人の女の人になりたいって思ったこともあったけど、ないものねだりだもん』
顔を上げては笑った。そんな風に悩んでたなんて知らなかった。に不足を感じたことなんか一度だってないのに。
『世界一のソナーなのに欲張りだな』
柔らかな髪を撫でながら笑うと、は驚いて顔を上げた。
『私、世界一のソナーになれたかな?』
『より優秀なソナーなんてどこにもいないだろ。……おかげで後任を探すのが大変だ』
ぼやくとは嬉しそうに笑った。恋人としてもう何も真実になる言葉を言えなくても、せめて船長として、が素晴らしい存在であることを伝えたかった。
『私、後輩欲しかったなぁ。それでソナーの「いろは」をいろいろ教えてあげたかった』
『ヘイアン国の王と兼任で、しばらく出張しに来ないか?』
『無理だよぅ』
笑ってほしくて、こぼれそうになる言葉を封じ込める。
別れたくない。行かないでくれ。がいなくなるなんて耐えられない。
ひとしきり笑って、は手を差し出した。
『さよならキャプテン。北の海で私を助けてくれてありがとう。いっぱい幸せだったよ。……さようなら』
その手を握って、笑って感謝を伝えようとして――どうしても、声が出なかった。