第10章 お別れ
「キャ、キャプテン、その死体どうするの?」
船番として残っていたベポが、引きずられる意識不明の海賊を見て飛び上がった。
「オペして治す。手伝え」
「お、俺、ゾンビ苦手なんだよ……っ」
半泣きのベポは同じく船番になったシャチを呼びに行った。シャチはストレートに返り血まみれのローを見て「ぎゃあ!」と悲鳴を上げた。
「俺の船に乗るなら血ぐらいでビビるな」
ちょうどいいので嫌がる二人に、オペをしながら人体の構造を教え込んだ。ロートレックはいい教材だった。
「ところでこれ、どこの海賊にやられたんですか」
ぞわぞわしながら最後の縫合を手伝い、世の中には残忍なことをする海賊もいたもんだとシャチは尋ねる。
「俺だ」
え、と二人はそろって自分の船長を見た。
「な、何かされたの、キャプテン?」
ベポの質問に、ぽかんとしてローは自分のクルーを見返した。しばらく考えたが、思い出せなかった。
「……忘れた」
、お願い帰ってきて。キャプテンが大変なんだ。二人は心を一つにして夜空の星に祈った。
93.カナリア
何かしてないとの最後を思い出しておかしくなりそうなのに、何も手に付かない。
治療してしばらくしてからロートレックが何者だったか思い出し、飼われていた女たちが復讐したがるかもしれないと気づいて、能力でバラバラにして空の木箱に放り込み、船の外に出しておくことにした。
「あんたそれどうする気なんだ」
船の修理に来た船大工たちが、気味悪そうにバラバラにされた人体を見てローに尋ねた。
「別に。もうどうでもいい」
ロートレックは麻酔が効いて、まだ意識がなかった。このまま海軍に持っていけば1億2千万が手に入る。それを聞いて修理工の男たちはちょっと心動かされた様子だったが、女たちが刃物を持ってめった刺しに来るかもしれないと教えると、謹んで辞退した。
「うわぁ、これどうなってるの?」
バラバラにされたロートレックを気味悪そうにつついたのは、ローを客引きしたサロン・キティの若い娼婦だった。
「仕事はどうした」
すでに日が暮れ、娼館は稼ぎ時の時間帯だ。ローに問われて赤毛の若い娼婦はそうだった、と木箱の前から立ち上がった。
「店に来てくれる約束でしょ?」