第5章 密航者
「いやだ、処女を奪った相手じゃないと気づきもしないなんて無粋な男だわ」
ピキ、と血管を浮かび上がらせ、ローは偽マルガリータの服を掴んで甲板まで引きずりあげた。
掃除に励んでいた男3人が仰天する。
「ええ!? 誰ですかキャプテンそれ!?」
「密航者だ。樽に詰めて海に放り込め」
「ウソだろ、殺す気か!?」
マルガリータにそっくりな密航者は本気の船長にビビって大人しくなった。土下座してローを拝む。
「すいませんでした。何でもするのでこの船に置いてください」
「却下だ。素性の知れねぇ人間を船に置くような危ない真似ができるか」
「名前はマリオン。歳は18。マルガリータの弟です。好きなものはスシ、嫌いなものは樽。どうぞよろしく」
「誰がよろしくするか」
まだ人食いサメがうろうろしているだろう海に向けて、ローはさっさと飛び込めとばかりに背中を蹴る。
「やめろって! 俺サメも嫌いなんだよ!」
「知るか」
「俺の処女を奪っておいて、この冷血漢!!」
「ええええええ!?」
女装少年のまさかの告白に男3人が叫んだ。
「てめぇと寝た事実なんかこの世のどこにもねぇよ!!」
「間違えた。俺の姉の処女を奪っておいて!!」
「ちょっとキャプテン、何スかその話!?」
「黙ってろ、シャチ!!」
「キャプテーン」
一番その話を聞かれたくないが、電伝虫を持ってとことこ甲板にやってきた。ベポは贅肉のせいで息が切れている。船の中で運動させるのは難しいので、いっそ食事を抜くべきかも知れない。
「マダムからだよ」
忌々しい気分で、ローは受話器を取った。