第5章 密航者
「ええっ、幽霊でも乗ってるの!?」
ベポが怯えた声をあげる。ううん、とは首を振った。
「幽霊じゃないと思うよ。足音がしてたもん」
たっぷり10秒かけてその意味を考え、ローは鬼哭を引っ掴んで船倉に走った。船倉の扉を蹴り開けると、そこでは乗船を許した覚えのない人間がおにぎりを食べていた。
「マルガリータ!?」
「あら、もう見つかちゃった」
サロン・キティの娼婦は気まずそうに視線をそらす。
「何やってんだ一体!?」
「私も海に出てみたくて。いいでしょ?」
「よくねぇ!! 密航だぞこれ!」
批難もどこ吹く風でマルガリータはつーんとしている。
(冗談じゃねぇ、あのマダムに誘拐と思われたらどんな面倒事になるか……っ)
そもそも娼婦を船に乗せるなんて風紀の乱れる危ないことができるわけがなかった。戻るしかないかとローが考えていると、とベポが下りてきた。
「キャプテン、お客さんいた?」
「あ、足ちゃんとある……?」
うしろでベポはにしがみついてびくびくしている。
「! 会いたかったわ!!」
マルガリータはに抱きついた。対するはきょとんとする。
「え? 誰……?」
あまりのショックにマルガリータは黙り込んだ。さすがにローも同情した。
「お前クマの帽子もらっただろ」
「……? マルガリータは女の人だよ」
困惑顔では主張する。
マルガリータが女なのは、ローもよくわかっているが――。
「ちょっと待て!!」
困惑の意味に気づいて、ローはカーディガンにスカート姿のマルガリータの服をむいた。
「助けて! 乱暴される!!」
「うるせぇ、誰だお前!?」
密航者の胸はまっ平らだった。ご丁寧に身につけられたブラジャーに厚手のパッドが入っており、入念に偽装されているが、間違いなく男だ。