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理由【ヒロアカ】

第2章 理由その2



「ありがとうございます」
手を取り、おずおずと立ち上がった。紳士な物腰の男性はよろける私の手を支え、さりげなく折れた方のヒール側を庇って私をすぐ近くのカフェへ連れて行く。
「ちょっと待っててね」
いつ注文したのか目の前に珈琲が置かれ男性はどこかへ行ってしまった。私の靴を抱えて。
「…どうしよ」
どうしようもない。靴が無いからどこへも行けない。珈琲を啜りながら男性を待つしかなかった。

「お待たせ」
男性が戻って来たのは珈琲を飲み終わる前だった。
「はいこれ」
男性がそっと差し出したのは、私の靴だった。驚いて受け取りヒールを見ると直っている。
「近くで靴の修理屋を見かけたのを思い出してね」
そう言って、にこにこと男性は微笑んでいる。
「あ…ありがとうございました」
思わぬ親切に私が戸惑っていると、男性は頷きまた微笑んだ。
「どういたしまして。困っている人がいたら助けなきゃね」
粋にウインクをして見せ、男性は手を軽く上げた。
「じゃあ私はこれで」
「待ってください!」
去ろうとする男性に慌てて声を掛ける。

「私修理のお金も珈琲も払ってないし! おいくらですか?」
「いいさ、高いものじゃない」
「私の気が済まないんです!」
「いいよ」
男性が軽く首を振った。あまりこれ以上言うのは迷惑かもしれない、でも。

「でも…じゃあせめてお礼にお茶でもいかがですか」
自分でも分からないがどうしても男性にお礼をしたかった。
しかし男性はさらに首を振る。
「私は今日はこれから用事があるんだ」
「だったら明日の同じ時間は?」
食い下がる私に、流石に男性が苦笑した。
「…明日ならいいよ」
「じゃあ!」
思わず手を叩く。
「こんな若いお嬢さんに喜んで貰えるならいいさ。じゃあ私はこれで」
そう言うと男性は現れた時と同じように突然去って行った。


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