第1章 これ以上なくきゅんとしない出逢い(?)
「What?!何で此処(街中)に敵が…!」
「くそ…よりによって俺らしか近くに居ないなんて」
とある休日。
相澤と山田の2人は、久方振りの休暇を使い商店街へ買い物にきていた。…が、そこで敵が暴れだしたのだ。
……正直、今すぐにでも敵を殴り倒して「俺のささやかな休日を返せ!」と怒鳴りつけたい。
しかし相澤の個性「抹消」も山田の個性「ヴォイス」も、捕縛はおろか攻撃にすら役立たないのが現状であり、2人は周囲の人々を避難させつつ相澤の個性で被害を減らす事しかできない歯がゆさを感じていた。
「せめて俺のヒーローコスチュームがあれば…!」
相澤が一瞬だけ目を閉じ、悔しげに呟いたその時だった。
山田の頭上を、黒く小柄な人影が一つ通り過ぎる。それに驚き彼は見上げるも、既に姿はない。
___鳥でも居たのか?
そう思いつつ視線を前に戻す山田。
誰よりも前に居る山田の目には、敵の姿しか映らない__筈なのに。
敵と山田のちょうど中間あたりに、真っ黒なふわふわのヒーローコスチュームを身に纏った1人の女性が居たのだ。
「あいつ…無茶だ、早く逃げろ!」
気付いた相澤はすぐさまそう叫ぶ。
背中を僅かに屈めて右手を前に出し構えた彼女は、相澤の声が聞こえたのか少し振り返り「大丈夫」と言いたげに笑いかえしてすぐに攻撃を仕掛けていった。
「ハッハァ、小娘1人なんてずいぶん舐めてんじゃねーか!いいぜ、なぶり殺してやるっ」
独特な姿勢から、敵は鋭く強い蹴りをなんども繰り出す。
いくつかを軽く受け流していた彼女だった…が、急に受け止めて敵の足をぐっと引っ張ると、相手の横腹に容赦なく思い切り蹴りをいれた。
「ぐ…っ」
足を離され、バランスと立つ気力をなくした敵は腹をおさえてその場にうずくまってしまう。
敵が顔をあげた途端、彼女は寸止めのフィンガージャブを相手の目に向け放った。
「……っ」
引きつった敵の顔を冷ややかな眼で見下し、彼女はこう言い放つ。
「これ以上されては迷惑も甚だしいのだけど。せめて私を倒してから始めて貰えるかな」
彼女の剣幕に押され、敵はしばらく口をはくはくとさせてから白目をむいて気絶してしまった。