第2章 2
「ああ…俺はともかく、お前にはきついんじゃないか。ルージュもほとんど口にしていなかっただろう。」
「ん…たしかにちょーっとキツイかなー。匂いで酔いそうだよ。」
辺り一面にはむせ返る程の血の匂いが充満していた。
「この野犬は俺らをここに連れてきてどうしたかったんだろうな。」
「うーん。この子を助けて欲しかったとか?
そこの女の子は多分、自ら野犬に身体を差し出したんじゃないかな?普通野犬に襲われたら抵抗するでしょ?
でもここにはそんな抵抗の跡がナイ。理由はわからないけどねー。」
「なんだそれ。そんな阿呆が居るとは思えんが…。」
「だよねー、同感。俺だってヴァンパイアの身体で簡単には死なないとは言っても流石に逃げるかなー。人間なら尚更。自分の身が可愛くないなんてよっぽどの聖人じゃなきゃあり得ない。」
「また振り出しに戻るな。とりあえずあの女はどうする?助かるとは思わんが…」
野犬「きゅーん…」
野犬は少女の側を離れようとしない。
それどころか、傷口を舐めて流れる血を止めようとしているように見える。
その姿を見たアーサーは、苦しそうに顔を歪めながら呟いた。
「ん…。こんな暗いところに放って置くのは可哀想だよ。
伯爵ならなんとかしてくれるんじゃないかなー…もしダメでも……お墓くらいは作ってあげよう。」
「そうか。確かにこのまま見捨てるのも寝覚めが悪い。運ぶぞ。」