第9章 9
荒い呼吸と真っ赤な表情のままなんとか言葉を紡ぐ。
「…ごめんね、キミがあんまり可愛く反応するものだから…」
アーサーの頰も少しだけ赤く染まっていた。
「あ…アーサー血が欲しいの?」
私に食事を摂らせたんだから、きっとアーサーも食事を摂りたいんだ。
そうじゃないと、困る…他の理由なんて…
「…ん、俺は…」
「血が欲しいんだよね?だから私にも食事をさせてくれたんでしょう?」
お願い、それ以外の理由なんて言わないで
そのまま私は胸元のボタンを外してアーサーが咬みやすいように開く。
「はい、咬んでいいよ。」
強引に首元を差し出す。
「アナスタシア、俺は血が欲しいワケじゃ…」
「いいの!アーサーはきっと空腹なの!だからこんなことしたんでしょう?だから食べて!」
私が思わず大きな声を出すと、アーサーが一瞬苦しげな表情を浮かべるが…
「ん、ありがと…。」
そう呟き、私の首筋に咬みついた。
「っ…」
一瞬の痛みと、そのあと全身に広がる快楽。
うん、これでいい。私達はいつも通り。お互いに食事を分け合う関係。それ以上でも以下でもない。
湧き上がりそうになる気持ちを深く押し込める。
大丈夫。私は誰も愛さない。‘彼’の他には誰も…
胸の深いところに仕舞い込む。頑丈に鍵を掛けて、誰にも開けることが出来ないように…
………
結局アーサーの書いた小説を読むことは出来なかった。
その代わりに‘いつも通り’の他愛もない会話をした。
その頃にはアーサーもいつもの調子に戻っていて、少し安堵したことを覚えている。
そして日が完全に沈む頃にはアーサーの部屋を後にして自室に戻っていた。
一人になって、今日起きたことを思い返す。
「大丈夫。特別なことなんて何も無かった。大丈夫…」
それでも身体は酷く疲れていた。
「もう、休もう…」
それ以上考えることを放棄して、私は眠りに落ちた。