第9章 9
フィンセントさんのモデルのお手伝いも佳境に入ったある日…
この日も朝からお手伝いをしていたけれど
絵の具を乾かしたい…というフィンセントさんの言葉で、昼過ぎにはお開きになった。
最近はモデルのお手伝いの後、そのままテオさんとフィンセントさんと一緒に食堂に行って夕食を食べるのが日課になっていたんだけど…
空に浮かぶ太陽はまだ真上にある。
夕方までモデルのお手伝いをする時は2人と一緒に外でランチを食べたりもしていたけれど
今日はフィンセントさんもテオさんも予定があるみたい。
そのため手持ち無沙汰な私は行く当ても無くお屋敷の中を一人ウロウロしていた。
「前までこういう日はどうやって過ごして居たんだっけ…」
最近モデルのお手伝いが無い日はテオさんのお仕事やお屋敷の皆さんのお手伝いなどそれなりに忙しく過ごしていたため、久しぶりの 何もない日 の過ごし方がわからなくなっていた。
「なんだか退屈だなぁ。」
フラフラと広いお屋敷を探索していると…
「あれ?アナスタシアじゃん」
ちょうど図書室の前に差し掛かった時、中から出てきたアーサーと鉢合わせた。
アーサー…眼鏡掛けてる
アーサーはジャケットを脱いだシャツ姿に眼鏡という格好をしていて、私がその見慣れない姿に驚いていると…
「どーしたの?そんなに見つめて。もしかして俺に見惚れちゃったー?」
いつもの調子でアーサーが問いかけてきた。
「ごめんね、眼鏡姿を見たのが初めてで…ちょっとびっくりしちゃった。」
私が答えると
「んー?そうだっけ?俺、執筆する時は眼鏡をかけるんだよねー。」
そう言って伸びをするアーサー。
よく見てみると、彼の手には原稿用紙がある。
「あ、執筆していたのね?」
「そーだよー。ちょーっと疲れてきて、息抜きにコーヒーでも飲もっかなと思って。そういうアナスタシアは?今日もフィンセントの絵のモデルをするって昨夜言ってたよねー」
「うん。モデルのお手伝いが早く終わったの。」
そういえば、毎晩食事のためにアーサーとは顔を合わせているけれど…
こうして自室以外で話すのは随分久しぶりな気がした。
「なんだかアーサーと部屋以外で会うのは久しぶりな気がするね。」
思ったことを素直に口にすると…