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落花

第4章 4




伯爵に初めて精力を分けて貰った日から数日。

私の体力は元通り。

二の腕には傷痕と不自然に削がれた皮膚。
けれどそれ以外は良好と言って良いでしょう。

全ては伯爵が毎晩嗜好品の食事のあとに
口付けで精力を与えてくれたお陰。

「伯爵には感謝をしなくてはいけないわ。」


ノックの音が聞こえガチャリと部屋の扉が開かれる。

「やぁ、お目覚めかい?随分体力が戻ったみたいだね。
顔色も良くなった。綺麗だよ。」

伯爵に頰を撫でられる。
私がサキュバスで無かったら
きっと恋に落ちるだろうと思うほどスマートだ。

「はい。伯爵のお陰です。ありがとうございます。」

「気にしなくていいさ。君はもうこの屋敷の住人なんだから。
ところで…私としたことが君の名前を聞いていなかったね。紳士としてあるまじき行いだ。」

伯爵の言葉に、そういえばそうだったな…と思い出す。
基本的に伯爵と二人きりで会っていたため、名前を名乗らずとも不便は無かったからだ。


でも…名前…
長らく一人で生きてきた私に名前など必要なく
過去に憑いていた人間の男には…ただサキュバスだ、とだけ名乗っていた。

そんな私に初めて名前を付けたのは ‘彼’だった。

そう、彼は私を アナスタシア と呼んだ。


「私に生まれ持った名前は無いのです。サキュバス、という種の名しかありませんでした。
でも…彼が付けてくれた アナスタシア という呼び名は好きだった…」

彼を思い出すと苦しくなる。二度と会えないという事実を深く突きつけられるよう。


「そうかい。アナスタシア。君にぴったりだ。そう呼ばせてもらってもいいかな?」

「はい…勿論です。」

彼にしか呼ばれることのなかった名前。
彼以外の人に呼ばれると少し嬉しい。


「アナスタシア、もし体調が良ければ屋敷の皆に顔を見せてやってくれないかい?
私から君の無事は伝えてあるけれど体調が万全になるまで会わないように言ってあったからね。
それに…君を運んだテオとアーサーにも元気な姿を見せてあげて欲しい。2人ともとても心配していたからね。」


「体調は平気です。私もお世話になる皆さんに挨拶をしたいと思っていました。」


「そうかい。それなら今夜晩餐会を開こう。それまでは部屋でゆっくりしているといい」

そう告げる終わると伯爵は部屋を出て行った。







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