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落花

第17章 落花




パリの街から遠く遠く離れる。

あの夜から2世紀が経過していた。

あの日お屋敷を出た私は、しばらく行くあても無く彷徨い続け

やがてある人に拾われた。

妻に先立たれて寂しいという老人。

人間の彼には、私と居ると死期が早まると伝えた。
しかし彼は構わず私を家に置いてくれた。

当然のことながら、一緒に過ごすだけで精力を吸い取られた彼は間もなく灰になって消えてしまう。


けれど、最期の瞬間…彼は私にありがとう、と言った。

私には彼の言葉の意味がわからなかった。

才能を求めることもなく、ただ一緒に過ごすだけで良いと言ってくれた。

私は何もしてあげられなかったのに…

そんな刹那的な愛を捧げながら、私は宿主を変えて生き続けていた。


一人になる悲しみに毎度襲われながら。

そして現在…


「また…戻ってきちゃった…」

フランス、パリ
あの頃とは少し様子が変わった街並み。

道行く人たちの服装も様変わりしている。


アーサーと離れてかなりの時間が経つが、私の心にはまだ彼が居た。

「会っちゃダメ。でも、この街のどこかに彼が居る…」


彼はもう私を忘れただろうか。
新しく愛しいと思う女性には出会っただろうか。

「幸せで、元気ならいいな…」ぽつりと零す。

ふと、気になる建物が目につき
吸い込まれるように中へと入る。


「美術館…?」

色々な展示品が飾られている。

「ひまわり…」

懐かしい、フィンセントさんが生前に描いた絵だったかな…


不思議な気持ちになり、しばらくぼーっと絵を眺めていると…

ドンッ!

「わっ!」
「きゃっ!」

大勢の人に押されてよろめいた、と思われる1人の女性と身体がぶつかる。

女性「ごめんなさい!」

ふわふわのウェーブがかかった髪。
とても可愛い容姿の日本人の女の子だった。

「大丈夫です、貴女こそ怪我はありませんか?」

気遣わしげに視線を向ける

「私は大丈夫です!すみません、ちゃんと前を見ていなくて…」

「お互い様です。私もぼーっとしていました。」

可愛い女性と微笑み合う。

「あの…美術品、好きなんですか…?」


女性に問われる。

好き…?うーん…なんとなく入っただけだからなぁ…


「好きかはわからないけれど、綺麗だと思います。」

そう答えると、彼女の表情がパッと明るくなる






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