第3章 3
「ん…」
薄く瞳を開ける。ここは?
ブラウンを基調としたシックで落ち着いた部屋。
違う、ここはあの家じゃない。
「どうして…?彼は何処に…?」
寝起きで頭が働かない。彼はどこ。いつも隣で眠っていたのに。
「あ…そう、か……」
「彼は消えてしまったんだった…」
まどろみから覚めた頭は残酷な真実を思い出させる。
「っ…うぅ……!」
気がつくと泣いていた。私はこの身体を呪う。愛する人を死に至らしめるこの身体。この命を。
「彼の灰は…?」
着ていた服も取り替えられて右肩には包帯が巻かれている。
でも、胸元にしまった彼が居ない。
「いやっ!どうして?どうしよう、彼がっ…」
「ごめん…ごめんなさい……探さなきゃ、彼を…」
ふらふらとした足取りで起き上がる。
ドアに手をかけると同時に部屋の外から扉を開かれた。
「っ!」
「おや、失礼。お目覚めかい?」
部屋に入って来たのは紳士風の男性だった。
「だ…れ…」
この人は知らない。少なくとも顔見知りでは無いと思う。
「私はこの屋敷の主人。サン=ジェルマン伯爵と呼ばれている。
酷い怪我をしていただろう? まだ休んでいなくてはいけないよ。」
名前を聞いてもピンとこなかった。
「私は助けられたの…?」
野犬に襲われて森で眠ったはずだった。
「ああ、ここの住人が君を連れてきたんだよ。君の身につけていた衣服も血塗れで、うちの執事に着替えさせたんだ。気を悪くしたらすまないね。」
「そう、ですか…ありがとうございました…」
「それと、君の服の中に砂の入った小さなビンがあったよ。大切なものなんだろう?」
伯爵は胸ポケットから小瓶を取り出して差し出す。
「っ!良かった…とても大切なものなんです。本当に良かったっ…」
少女はビンを大切そうに胸に抱きしめる。
その光景を見た伯爵が一瞬、何かを確信した表情を浮かべる。
「さて、身体が大丈夫なら何か口にしなくてはね。執事に何か作らせよう。驚くと思うが君は5日ほど眠っていたんだよ。」
「5日も…。あの、貴方は何故見ず知らずの私によくしてくれるのですか?」
「それは君が…この屋敷の客人だからだよ。客人はもてなして当然だろう?」
「客人…」