第14章 まだ
ああ…なんて幸せなんだろう。
先程までこの人の代わりに違う人に抱かれていた。
ねぇ…許してくれるなら、私と…
「ふっ…んぅ…」
止まらない強引な口付け、容赦なく口内を這う熱い舌。
私、貴方を愛してしまった。
「はっ…」長い口付けを終え、アーサーはようやく唇を離す。
「っ…」私と彼の間に伝う銀の糸。
「アナスタシア…俺と」
きっと、その後に続くのは私が何よりも欲しい言葉。
大好きなアーサーの瞳。見詰めあったあの夜を思い出す。
でも…私は幸せになってはいけないと思う。
死んでしまっても良いという程愛してくれた彼を裏切ることが出来ない。
「アーサー、私は彼を愛しているわ。」
本心など…とうにわからなくなっていた。
この言葉が偽りかどうかもわからない。
アーサー、貴方を愛してるのは真実。
でもそれは許されないこと。ならば私は、元に戻ろう。
貴方と出会う前に。この気持ちが生まれる前に。ただ彼だけを愛していたあの頃に。
「そっ…か…」
アーサーの顔が苦しげに歪む。
そんな顔をさせたくはなかった。
「だからね、私のことは嫌いになってっ…!
お願い…アーサー。私は貴方のことを愛していない。」
本心を偽るのはこんなに苦しいものだったか…
嫌いになって、嫌いにならないで。
愛していない。
いいえ、愛している。
話しながら歩き、いつの間にか自室の前に辿り着いていた
「っ…じゃあね、アーサー。おやすみなさい…っ」
自室の扉を閉める。
外にはまだアーサーの気配がある。
彼がもたれかかっているだろう扉にキスをする。
アーサー、大好きよ。愛してる。貴方と過ごした一年は彼と居る時とはまた違う、刺激的で幸せな日々だった。
私を守ると言ってくれて、嬉しかった。
抱きしめ合った貴方の体温、不安を私が消したいと思った。
愛してる、本当に強く貴方を想っている。
「ダメだ、もう…ここには居られない…」
…私は‘彼’を裏切ることが出来ない…