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こんなはずじゃなかったのに

第1章 1


そこへパウダールームのドアが開く音がした。

お嬢様がそのままオレのいるキッチンへ向かってくる……と思いきや、足音は反対の方へ向かった。

階段を上がる音。

予想外の展開にオレは取り乱した。

急いで冷蔵庫から炭酸水の瓶を取り出し、栓抜きとグラスをトレーにのせる。

それを片手に、お嬢様の髪を乾かすための道具たちを抱え、オレは後を追った。

まったくスマートじゃない。

お嬢様の予想外の行動に少し慌てたが、まだ計画の範囲内だ。なにより一刻も早く、お嬢様のパジャマ姿を見たかった。

脇に抱えたドライヤーを取りおとしそうになりながら、お嬢様の部屋をノックする。

「お嬢様、御髪(おぐし)を乾かしましょうか?」

少し間があき、お願いという声が返ってきた。

期待に胸が躍る。

ドアをゆっくり開けると、ベッドの上にちょこんと腰かけたお嬢様が見えた。

オレとおそろいのパジャマを着て、湯上りの顔をほんのり赤く上気させている。


――可愛い。可愛い!可愛い!!可愛い!!!

ああ、もうダメだ。

風呂にも入っていないのに、なぜオレはこんなにのぼせているのだろう。

頭がクラクラして倒れそうだ。

「川島、危ない!」

気づくとお嬢様がオレに駆けよりトレーを支えていた。

「もーなにしてるの。グラスが倒れるところだったよ」

いいながら、オレの体からトレーやらドライヤーやらを次々に剥ぎとっていく。

「すみません……」

お嬢様から目が離せず、
ぼんやりとそれを見守っていた。

そして、お嬢様は炭酸水の入った瓶のフタを小気味よい音をさせながら開けた。

なにか礼をいわれた気がしたが、オレの頭はまだぼうっとしたままだ。

細かい泡のついたグラスをお嬢様が傾ける。

白い喉が上下に動くのを眺めていると、ようやく意識がはっきりしてきた。

「あー美味しい!」

「お嬢様、その寝間着よくお似合いですね。とても、お可愛らしい……」

「え?ああ、そうだ。これって川島が用意したの?私のバスローブは?」

キレイな所作でグラスを置くお嬢様に、オレはあらかじめ用意していた答えを放った。


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