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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



 あかん。身体が震える。帰りたい。ホント今すぐ帰りたい。

 私が今いる場所がどこかと言うと、絵に描いたような高級料亭である。今は夜だ。
 いやあ掛け軸の下の生け花の美しいこと!
 お庭の景色の風流なことと言ったらね、もうね!
 目の前に並ぶのは蟹だの海老だの、北海道の海の幸を贅沢に使った高級料理の数々。

 ……そして正面に座るのは上機嫌な鶴見中尉殿。

 ここに来るまで、どうにか断ろうとしたが、何だかんだで言いくるめられ夕食をごちそうしてもらうことになってしまった。

 彼の目的は私を通し、私の実家という資金源の確保だろう。
 当たり前だがどんだけ調べても、私の実家に関する情報が出ることはない。

 だから、私に接触するより他は無かったんだろう。
 
 鶴見中尉は楽しそうにハシを手に取り、

「さあ梢さんも、どうぞお召し上がりを。梢さんはいつもご遠慮深いですからな」
「どどどどどうも……」

 どうしてこうなった。
 くっそ。SNSに投稿したいくらいの豪勢な海鮮料理なのに、全っ然味が分からねえ!!

「湯治の旅行はいかがでしたか?」
「は、はい。とても楽しかったです。鯉登少尉様と月島さんにはとても気にかけていただき」
 鶴見中尉はうんうんと、
「そうですか。それは良いことです。私には信頼のおける部下ですが、女性の扱いになれていない無骨者たち。
 梢さんに失礼が無かったかどうか心配しておりました」

 こいつ、犯罪行為を命令しておいて、いけしゃあしゃあと。
 つかこの旅行自体が自分の仕込みだったってこと、隠さないな。
 腹立つが小娘に立ち向かえる相手じゃない。どうにかして帰らないと。

「鶴見様。あまり遅くなると家の者が心配するので――」
「ほう? 今日はご家族の方がおいでになると?」

 ギラリ。隙を見せれば喉笛に牙を突き立てられそうだ。

「ち、違います。通いの者がきっと心配して……」
「梢さんはお優しい。だがたまには心配させてやればよろしいのです。
 年頃のお嬢様をお一人で寂しく過ごさせるなど、断じてあってはならないこと」

 ガリッと料理を食いちぎるとこが怖い。

 ダメだ。怖がってると相手に悟られるな。
 このままだとヤバい。

「ところで梢さん。先ほどのお話について――」

 来たー!

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