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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 けどあるときを境に、返事が来なくなった。
 というよりも、慰問袋が消えてしまったのだ。
 いつもなら中身だけ入れ替わって置いてあるのに。

 猫が持っていったのかと必死に探したが見つからなかった。
 何度も何度も、いつも慰問袋を置く場所を確認した。

 でもその翌日も、その次の日も、慰問袋は戻ってこなかった。

 詐欺かイタズラ、もしくは私の幻覚だったんだろうか。
 だんだんとそう思い始めた。

 けど一抹の希望を捨てきれず、私は着物姿で縁側に座って過ごし、過去の世界からの返事を待った。

 奇跡は起こった。
 だが私が望んだものと全く違う奇跡だった。


 あるとき、時代錯誤な軍服姿の軍人が庭に現れたのだ。

『何だここは……どこに迷い込んだんだ?』

 と彼は戸惑ったようにキョロキョロした。
 そして縁側で呆然としてる私と目が合った。
 もしかしてこの人は――。

『もしかしてあんた、梢か?』
『そうですが……勇作さん、ですか?』
『違う』

 よ、良かった。手紙とイメージ違いすぎだし。
 ならこの人は誰?
 内心パニクったが、目の前の軍人は懐を探り出す。

『あんた、本当に存在したんだな。勇作少尉殿の与太話かと思ってたぜ』

 彼はそう言い、私に何かを渡してきた。

『あんたのだろ? 少尉殿の遺品にあった』

 慰問袋だった。中には手紙と写真が入っていた。

 写真には二人の男性が映っている。
 一人は目の前の男の人。もう一人は――多分この人が勇作さんなんだろう。とても端正な顔立ちだった。

 ――だが。

『遺品ってことは……勇作さんは』

『戦死した』

 男は無表情にそれだけ言った。
 湯呑みが割れる音がした。
 
 そして慰問袋を抱えて泣き出す私を、その人はじっと見下ろしていた。
 
 ――以上!

 時空を超えた奇妙な恋話は、成就を待つこと無く終わってしまった。

 ただ妙な後日談がある。それから庭に、ちょくちょく過去からの客が来るようになったのだ。

 でも私は気味悪く思うどころか喜んだ。
 勇作さんという心の支えを失った私は、他者との交流を切に望んでいた。
 誰かと話したかった。

 ……おかげでどこぞの山猫につけこまれたり、危うく百年前の世界に閉じ込められかけたり、大変なことになってたわけだが。

 反省しております。はい。

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