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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



「それでは僭越(せんえつ)ながら一曲!」
 桜の下、高らかに軍歌が響く。 

「梢ちゃん、もう一杯酒をついでくれんか?」
「梢ちゃんはどこの生まれなんだ?」

 酔っ払いうっぜぇ。
 私は花見についてきたことを、早くも後悔し始めていた。
 紅一点なので、ある程度絡まれることは想定してたが、予想以上だ。
 酒が入って、馴れ馴れしく肩を抱いてきたりするし。

「いい加減にしろ。彼女は芸者でも何でもないんだ。酒に飲まれて恥をさらすな」
 月島さんが適度に虫除けしてはくれるが。

「すみません、梢さん。どうぞ」
 あ。どもっす。可愛い三色団子を勧められ、ありがたくいただく。
 この時代の甘味は限られてるもんなあ。
 元の時代に帰ったらコンビニでスイーツを買い占めたいわ。
 団子を食ってる間も、皆さんは雑談に花を咲かす。

「いやあ、可愛いお嬢ちゃんが一人いるだけで場が華やぐなあ。俺もこんな可愛い嫁さんがいればなあ」
「女房が連れてった娘も、今頃梢ちゃんくらいに育ってるだろうなあ」

 ……第七師団って独身者の割合多くないか?

 それも、ただ単に独身というだけじゃなく『世間から切り離されてる』感があるというか。

「鶴見中尉殿ー!」

 あ。そうじゃないのもいるか。
 ちなみに、いかにも私に絡んできそうな鯉登少尉はと言うと、

「鶴見中尉殿! こちらの桜餅はいかがですか!!」
「鶴見さーん!! 鶴見さんのために西洋菓子を買ってきたんです、どうぞ!!」
「うむ、ありがたくいただこう」

 ……おっさんず何とか、再び(二人はおっさんではないが)。

 少し離れたゴザに、鶴見中尉たちがいた。
 鯉登少尉、江渡貝ともに、愛しの鶴見中尉の気を引こうと必死。
 その異様な光景に、皆近寄ろうともしない。

 意外なことに鶴見中尉殿はお酒が苦手らしい。
 二人の差し出す高価な菓子を、美味そうに食っていた。

 そういえば、さっきの私のタックルについて、鯉登少尉がどうコメントしたかというと、

『照れおって! むぞか(可愛い)おなごじゃ!』

 と、逆に上機嫌になってた。むぞかって何じゃ。

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