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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



「消毒薬臭い、包帯臭い、寒天臭い、化粧臭い!!」

 江渡貝はヒステリーを起こし、わめきたてる。
 私はおかゆを食べさせてもらいながら、チラッと江渡貝を見る。

 ……目が合った。私は思う。

 こんな状況で化粧が出来るか。馬鹿だろ、あんた。

「馬鹿!? 僕のどこが馬鹿なんだ! 僕は鶴見さんの依頼で作品の制作を引き受けてるんだよ!! おまえは臭いんだよ!!」

 あのさあ。人のこと臭い臭い言うけど、あんただって大概(たいがい)だよ?
 朝から晩まで、ホルマリンの臭いがひどいよ?
 よく自分で気にならないね。自分こそ風呂に入りなよ。

「ここは僕の家なんだから、僕がどういう臭いをさせてても僕の勝手だ
 偉そうに命令するなよ! 僕に命令出来るのは鶴見さんだけだ!」

 あと前から思ってたけど、あんた、鶴見さん鶴見さん鶴見さんって毎日だよね。
 友達とか恋人とかいないの? まあ、いたらこんな生活してないか。

「大きなお世話だ!! 女のくせに生意気だぞ、おまえ!!」

 はっ、てめえこそ童貞のくせに!!

「……っ!!」

 江渡貝が硬直し――激怒のあまり顔が真っ白になる。

「殺す! その格好のまま殺してホルマリンに――」

「……江渡貝くん、梢さんはさっきから一言もしゃべってないけど?」
 と恐る恐るといった感じの前山さん。

 いや、彼と私は会話が成立してます。彼の恐ろしいほどの勘の良さ――もしくは被害妄想でもって。

「そうだよ! 僕はこの子と話してる! それにこいつはさっきからずっと僕を馬鹿にしてる!! 僕には分かるんだ!!」 

 うん。実にその通り。

「ほら前山さん、今、彼女も『その通り』って言ったでしょ!!」
「……だから梢さんは何も言ってないってば」
 完全に危ない人を見る表情の前山さん。

 言ってます。実に正確に読み取っていただいてます。

 月島軍曹は私に朝食を食べさせ終え、口元を拭いてくれる。
 うんざりしたように肩を落とし、

「江渡貝。妄想で勝手に会話するのは止めてくれ。
 それに梢さんは優しい人だ。他人を馬鹿にするようなことはしない」
 
 会話出来てるし、馬鹿にしてます。

 だが悲しいかなこの奇跡を立証出来る私は、未だ声を出せない状態だった。

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