第6章 蒼空と桔梗 [政宗] 後編
(檸檬はどこだ……?)
今日は珍しく時間が空いた。普段ならこんな日中は公務に耽っているのだが、ひと段落ついたので檸檬に会いに行こうと、檸檬の自室を訪れる。
しかし、そこには誰もいなかった。
(いつもならこの時間は針子の仕事をしているよな。)
青々とした葉桜が盛りを迎えた初夏の安土城。
本能寺の一件から一年近くが過ぎようとしていた。
檸檬。最初はおかしな女、そんな好奇心と興味の対象でしかなかった。しかし、あいつと過ごす時間が増えるにつれ、その健気さや素直さ、そしてあの笑顔に惹かれるようになっていった。あいつと出会う前はそれなりにいろんな女と関係を持っていたが、最近は檸檬しか見えなくなるほどだ。
それでも、以前の癖は簡単に抜けることはなく。
大事にしたいと思うのに、好きだと思えば思うほど俺に靡かない檸檬に焦る。
会った当初から軽い気持ちで檸檬に触れ、甘い言葉を投げかけていたせいで、檸檬自身、他の女と変わらないと思っているのだろう。
この間の朝だって、俺は檸檬の頬を舐めた。
理由はどうであれ、男に頬を舐められたら少しは照れるとか、恥ずかしがるとかするんじゃないのか?
一切顔色も変えず受け流す檸檬にもどかしさを感じていた。
それでも。
初めて本気で惚れた女だ。絶対に落としてやる。
そう思い、檸檬を探して安土城の廊下を歩いていると
「なんだ、政宗さんじゃないですか。さぼりですか。」
薄い黄色の猫っ毛を揺らしながら、向こうから家康が歩いてくる。
「あほか、仕事がひと段落ついたから休憩だ。……檸檬知らねぇか?」
「檸檬ですか?……あぁ、さっき門の見張りをしている兵が、檸檬が最近よく城下に行ってるって噂してましたよ。
しかも……男連れだとか。」
「はぁっっ?!」
檸檬が男と一緒に城下に行っている……?
「おい、それ、秀吉とかじゃないだろうな?」
「さすがに違うと思いますよ。あの人今、城にいますし。秀吉さんだったら兵も知ってるんじゃないですか?なんか知らない人っぽい感じでした。」