第4章 桜が秘めた恋心 [家康] 後編
「……うっ、はあ……」
(ここは……?)
見慣れた天井。でも……
俺は戦地にいたはずだ。なんで安土城のしかも自室にいる?
(……)
朧げな記憶を必死に辿っていく。
あぁ、そうか。斬られたのか。で、そのあと倒れて……
(戦はどうなった?檸檬は?)
戦の結果や檸檬の安否が気になり、身体を起こそうとした。
「うっ、ぁ……」
尋常じゃない痛みに襲われる。あの時斬られた傷が思ったよりも深いらしい。しかし、刀傷一つで動けなくなるなんて。弱い自分に腹が立つ。
その時
「家康、起きてる?入るよ?」
そう遠慮がちに襖が開けられて不安そうな表情をした檸檬が顔を出す。
檸檬は俺と目があうとほっと安堵の表情を浮かべる。
「家康!よかった、気がついた?」
檸檬は嬉しそうに俺に駆け寄ってくる。どうやら檸檬は無事らしい。じゃあ、戦は……
「……戦はどうなったの?」
もし、俺の怪我のせいで軍が混乱して……負けてたら。そんなことあったら本当に情けない。
檸檬がふにゃっと顔を綻ばせる。
「大丈夫。ちゃんと勝ったよ。家康が斬られたのと同時ぐらいに信長様達が敵軍と衝突して……。それより今は家康の体の方が大事。大丈夫?」
そう言って檸檬は俺の身体に手を伸ばす。
俺は、痛みを悟られないようにと自ら身体を起こそうとした。しかし、身体は思うように動かず、痛みに顔を歪めてしまう。それを檸檬が見逃すはずもなく……
「家康っ?!だめ、寝てないと…。痛いよね…?」
申し訳なさそうに檸檬が俯く。
「ごめんね……本当にごめんね…。私が弱いから…。結局、家康にもみんなにも迷惑かけちゃった…。」
そう言って涙ぐむ檸檬に胸がズキっと痛む。
普段なら弱い奴なんて放っておくし、女の涙だって鬱陶しいだけのものだ。でも、檸檬に泣かれるとなぜか……放って置けない。
「……あれはあんたを一人にした俺にも責任がある。たとえ少しでも俺が油断したから…。それに、あんたを助けたのはあんたのためじゃなくて信長様の命だから。あんたが泣く必要はない。」
檸檬から目をそらしながら吐き捨てるように言葉を紡ぐ。