第3章 桜が秘めた恋心 [家康] 前編
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ー次の日
「次はこの薬草を整理して……」
朝、家康に言われた通り、薬品の整理や個数の確認などの仕事をこなしていく。
まだ敵方と衝突はしていないため、怪我人はいない。それでも、満全の準備を整えるためやることはたくさんあった。
もう、辺りは暗くなり始めている。家康は少し前に家臣の人に呼ばれて何処かに行ってしまった。昨日は心地よかったはずのこの静けさが今は少し不気味に感じる。
(家康、早く戻ってこないかな……)
そう思いながら、残りの仕事を片付けていく。
「あとは……お水だよね。」
水を汲みに行こうと外に出る。湖に浮かぶ月は昨日と変わらず曇りのない光を湛えている。
(綺麗……)
静かな水面に魅入っていたその時。
ぐいっ
「ーっっっ……!」
後ろから誰かに腕を引かれ口を塞がれる。
そのまま近くの茂みの中へ引っ張られ倒れこんだ。
ガサガサッ……ドンッ
そのまま地面へ叩きつけられる。
暗くて何も見えない。顔を上げれば数人の男達。
あまりに突然のことで声も出ない。
その瞬間喉元にひやりとしたものがあたる。
(……刀っっ!)
私に切っ先を向けた男は不気味に笑う。
「織田のものだな?答えろ、信長は今どこにいる。」
答えなければ殺す。
そう言いたげな鋭い眼は刀のように私を貫く。
明らかに織田の人じゃない。おそらく……敵方の偵察兵。
恐怖と焦りで頭が混乱する。でも、ここで信長様の居場所を答えるわけにはいかない。私が答えれば信長様の身を危険に晒すことになる。そんなこと……
「っっ……」
反抗の意思を持ってその鋭い瞳を睨み返す。
「そうか、ならば……」
喉元にあった切っ先が頭上へと振り上げられる。
「いやっ……!!」
とっさに浮かんだのは家康の顔。声にならない助けを家康に求める。
(お願い……!!)
「覚悟……!!」
*・°*桜が秘めた恋心 後半へ*・°*