第10章 零部・二人の時間
身近な女が売女だったらどうする?
もしアタシが男だったら利用する。一般論はそうだと思う。言葉では興味の無いフリをして実際はその様に扱うんだよ。
『立派って…貴方馬鹿なの?』
「普通は…利用する」
そんなの分かってる。
「だが俺はお前の事を知ったところで利用はしない」
『男の…言う事、なん…て…』
"信じない、信じられない"と言えなかった。
だって初めて会った時から知っていたから。一族殺しとして悪名高い彼がどんな思いでその様な行動を取ったのか。里を思い、最愛である弟を想い、守る為の行動だと。
そんな自己犠牲的で優しい人の言葉を信じられないハズが無い。
「だからそんなに怯えないでくれ」
『………』
「そこまで怯えられると…流石に傷付く」
ほんの少しだけ。ほんの少しだけ。あのポーカーフェイスなイタチさんが困った様に微笑んだ気がした。
※※※
記憶を見られたと知った時のチヅルは殺気混じりの警戒心を剥き出しで大層怯えていた。余程トラウマなのだろう。否、あれがトラウマにならない人間は居ない。
俺の意を汲んでくれたであろうチヅルから殺気と警戒心は消えた。だがまだ少し怯えは残っている様に見える。
『どうして…アタシの事を知ろうと…思ったの』
「眠れる様になる対策があるのではと思った」
正直あんなのをみてしまったら対策どころか、こちらもトラウマになりそうではある…から失敗に終わったが。
『ふふっ』
「!?」
『変なの。イタチさんが気にする事じゃ無いのに』
小さく笑って月を見上げながら言う。チヅルは月がよく似合う。月を見上げる姿はよく見ているがその姿はとても神秘的だと思う。
『でも…有難う。そう言ってくれる人がいるなんて夢にも思わなかった』
と微笑む。いつものチヅル、いつもの笑顔…なのだが何故だろう。何か少し違う。何がとか何処がとか聞かれたら答え難いのだが、ちょっと違う。
「………」
『…何?』
「いや…」
何も変わらないのに何かが変わったその綺麗な瞳を見ていられず思わず視線を逸らしてしまう。さっきまであれだけ凝視してたのに何故か今は見れない。見たら駄目な気がした。
『まぁ…うん、ちょっとだけ楽になった気がする』