第1章 ハニー・ヌードショー
それからしばらくして、彼等は、その小劇場を後にした。
帰りの車中、七七七はむっすりとした表情で窓の景色を眺める。運転席に座る夢野は、ため息を小さくついた。
「まだ怒ってるのかい?」
「当たり前じゃないですか!あんな大勢の前で私はっ…!」
「いいじゃないか。どうせ変装してたんだし。」
そう言った瞬間、彼女の姿がみるみると変化していく。
派手目の美人だった見た目が、素朴な印象ながら端正な顔立ちに変わる。
彼女が『エサ役』になる時は、いつもこうして彼の魔法で変装をしている。
「しかもまた私の精気を…」
「それは君が俺の舌を噛んだこととチャラさ。」
彼女は…(そういえば舌を噛んだんだった)…と思い出した。本気で噛んだ訳ではなかったが、突然不安に襲われる。
「でもそれは夢野さんが……でももしやり過ぎたなら…」
「まぁ人間に噛まれたくらいじゃなんともないけどね。」
彼がチラリと見せた舌には、傷跡1つ残ってなかった。
「もうっ!」
「特別手当出しとくからさ。」
キュッと音を立てて、車が停止する。
彼女はシートベルトを外し、ドアを開ける。
「お願いしますよ!」
そして乱暴にドアを閉めて、自分が住むマンションへと入っていった。
彼はそんな彼女の後ろ姿を見送りながら、小さなSDカードにキスをして、車を発進させたのだった。