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「明日香河」「巻向の」

第1章 オセロ


朝メシを食いに食堂へ行くと、隊士が数人かたまって騒いでいた。
近くにいた山崎を捕まえて何事か聞くと、世にも地味な口から世にも地味な話を聞かされた。
隊士の1人が、女に振られた。しかも理由が「ちっとも会えないし、約束もしょっちゅうすっぽかされる」と来た。
意味が分からねー。
女ってのは、そもそも意味が分からねえ生き物だけど、それにしてもその女は、天人並みに意味不明だ。
会えねーのも予定がコロコロ変わるのも、江戸を守る為であり、ひいてはその女を守る為であるというのに。
俺は山崎の地味な顔に向かってため息を吐き、朝メシの乗ったおぼんを手にして、その隊士の近くに座った。
周りに居た他の隊士がよける。チラリと見ると、例の隊士は泣き腫らした眼で、びっくりしたように俺を見ている。
俺は味噌汁をすすり、目玉焼きに箸を突き刺しながら言った。
「女に振られたくらいで、グダグダ言うんじゃねぇ。俺らは近藤さんの元で、命かけてこの国を守ってる侍だろうが。てめぇを振った女は、侍と付き合う覚悟が無ぇ甘ちゃんだったんだろ」
箸の先から、トロリと黄身が流れ出す…こんな風にして、何人の体から血が出ていくのを見たことか。そういう人間だろ。俺達(真選組)は。
例の隊士も周りの奴らも、全員キョトンとした顔で俺を見ている。
さっさと食事を済ませ、立ち上がった。
「…沖田隊長」
かさついた声に眼をやると、絞り出すように礼を言われる。
近くで山崎と土方が話をしているのが耳に入った。
「…山崎、なんだか総悟が大人になったように見えるのは俺だけか」
「自分もそう思います。ゴ、局長に言わなくちゃですね」
とかぬかしてやがる。
食堂を出るタイミングで、食い残した目玉焼きを、土方の世にもムカつく顔に貼り付けてやったのは、我ながら上出来だったと思う。
ついでに山崎の味噌汁には、タバスコを一瓶放り込んでおいた。
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