第26章 帰還
「指輪……買おっか」
情事が終わったあと、
同じベッドで寝ようとしたら
私の指を重ねたカカシが
そんなことを言い出した。
「指、細いねえ。何号?」
何号?何号とはなんなのだろうか。
指の大きさだろうか。
頭にハテナマークが飛んだ。
「んー…でも…私あんまり指輪とかつけないし…」
もともと金属をつける習慣がなくて
あまり興味もなくて。
じつは、私のお母さんは
金属アレルギーだった。
私はアレルギーではないけど。
母は、ネックレスや貴金属のものをつけると、肌が赤く痒くなったようだ。
お父さんが、お母さんの話をしていたとき、そう話していた。
指輪の話を。
「あ、カカシ。ねえ、私のお母さんのエメラルドの結婚指輪が、残ってるの」
私のお父さんが、お母さんにプロポーズするとき、指輪を買ったのだ。金属アレルギーなのに。なんと3か月分のお給料で。めちゃくちゃ高価な指輪だ。
ベタな話だなぁって聞いたとき、つい思っちゃったけれど、私のお母さんは泣くほど喜んだみたいで。
半日ぐらいなら、アレルギー反応はでないから、結婚式や大事な式典で出るときは、いつも付けていたそうだ。
母は亡くなるとき
私にあげてほしいって話したらしい。
幼過ぎて記憶が写真でしか残らない私のために、指輪をプレゼントして欲しいと言ったそうだ。
「昔のだから、ぜんぜん流行りの形じゃないけれどね。リメイクしたら、また輝くと思うの。カカシ、良かったら、そうしてくれる?」
「ああ、わかった。じゃあ、今度お店行こうか」
「うん。あ、カカシの指輪も、エメラルド使ってくれる?すっごく大きくてさ、絶対余ると思うの。指輪の裏側に使って?」
私が聞くと、カカシは目を細めて
優しく頭をなでてくれた。
私のお母さんが、
もし生きてたら、結婚を
喜んだだろうな。
もし私に子供ができたら
指輪をプレゼントしようかな。
そんなことを思った。