第2章 その死神、労働
ザクっ
私は、剣の形をした自らのデスサイズを、目の前で横たわっている女性に突き刺した。
「ライラ・エバンズ。1853年12月15日生まれ。1889年3月13日転落事故により死亡。備考、特に無し。」
シネマティックレコードを確認し、死亡予定者のリストに載っている文章を淡々と読み上げる。
名前の横に回収済みのスタンプを押し、パタンと手帳を閉じる。
「次は...大通りの交差点ネ。馬車同士の衝突事故により死者4人...まったく、人間ってのは脆いものね。」
「グレルも元は人間でしょ。」
隣でめんどくさそうな顔をしている同僚にツッコミを入れる。
そう...私たち死神は、自殺した人間がなるもの。お上に言われるとおりに、魂の回収作業を行う。淡々と、淡々と...
「前から気になってたんだけどさ...グレルはどうして自殺なんかしちゃったの?」
隣でイケメンを見つけては騒いでいるグレルを見ると、到底自殺なんかしないように見える。
「どうしたのヨ、急に。」
「いやぁ、なんか気になって。グレルって、殺しても死にそうにないし...」
「チョット!どういう意味ヨ!!」
「あはは...冗談だって。」
つい漏れてしまった本音を、笑って誤魔化す。
「それに、乙女にあまり詮索するのは良くないわヨ。だからモテないのヨ...」
「モテないは余計よ!!それに、私は彼氏が出来ないんじゃなくて、作らないの!!」
思わず叫んだ私を、意地悪そうな顔のグレルが見る。
「フーン...なんなら、アタシが貰ってあげましょうか?」
唐突にそう言って、私の目を見つめる。
私と同じ色のふたつの瞳がこちらを見ている。
ふとした男っぽい表情にドキッとしつつも平静を装う。
「い、いらないよ、こんなおネエ...」
「“こんな”ってなによ!!アタシだってイケメン以外に興味無いわヨ!!」
デスヨネーと思いながら苦笑を浮かべる。