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ハリー・ポッターと龍宮の姫巫女

第12章 姫巫女とトロール


 誰もいなくなった廊下を通り抜け、女子トイレへと急ぐ。
 しかし、角を曲がったところで、後ろから急ぎ足でやって来る音が耳に届いた。

「パーシーだ!」

 ロンの囁きに、三人は怪獣『グリフォン』の大きな石像の後ろへ姿を隠す。

 だが、石像の陰から目を凝らして見ると、やって来たのはパーシーではなくスネイプだ。
 廊下を渡り、黒い長身の教師が視界から消える。
 向かった先は階下の地下室ではなく、四階のようだ。

「スネイプ先生、どこに行くんだろう?」

「あっちは四階だろう? なんで、他の先生と一緒に地下室に行かないのかな?」

「知るもんか」

 シオンとハリーの疑問を、ロンが短く切り捨てる。
 確かに気になるが、それよりもハーマイオニーを助ける方が先だ。

 シオンは答えることなく、慎重に廊下を進んだ。
 やがて、とてつもない異臭が鼻をつく。

「何か臭わないか?」

 ハリーが言うより早く、シオンも気づいていた。
 形容しがたい異臭に、シオンは両手で鼻を覆う。
 そこへ、金色の軌跡が形を取った。

『シオン、気をつけよ。異形の気配がするぞ』

「はい、月映さま」

 異形――つまり、人ではない者がすぐ近くにいるという忠告。
 杖か紫扇のどちらかを用意しようとして、シオンは扇を手に取った。
 まだ初歩の呪文を習っている段階で、使える魔法が少ない。
 それなら、馴染んだ紫扇の方がいいと判断したのだ。

 低い唸り声と同時に、引きずるような音が耳へ届く。
 突然、ロンが指をさした。
 廊下の向こう側の左手から、巨大な何かが近づいてくる。

 三人で物陰に隠れると、窓から降り注ぐ月明かりに照らされて、『それ』は姿を現した。

 四メートルはある背丈、鈍い灰色の肌、ずんぐりとした巨体、頭はココナッツほどで、体型との釣り合いはとれていない。
 丸太のように太い手足は、足は短いのに腕は長い。
 そのせいで、手に持った棍棒が床を引きずっている。
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