第8章 やくしょく
「(飯を食うことにまだ抵抗があんのか...こりゃ教えてやらねぇとな...)...雪月、」
「あい」
呼び掛ければ、雪月は返事をして顔をあげた。
「腹が減ったら俺に言え。何でも作ってやる」
「ぇ...?」
意味がわかってない雪月はきょとんとした。
「ここでいくらたらふく飯を食っても、お前を怒る奴なんか何処にも居ない。むしろ、飯を食わなきゃ俺が怒るぞ」
「?!」
「いいか雪月、1つだけ約束しろ。俺も1つ約束するから」
「やく、しょく...?」
「あぁ」
政宗は雪月の頭に手を置き、しっかりと目を見ながら伝えた。
「俺が毎日、お前に美味い飯たらふく食わせてやる。だから、お前は毎日飯をしっかり食え」
――――誰でも当たり前に美味い飯が食える、末永く栄える豊かな国をつくる――――
政宗の理想に反した環境で生きてきた雪月。
世界が違くても、当たり前に美味い飯が食えない者もいる。
政宗はそれがどうしても許せなかった。
(こんな小せぇ奴が...雪月が一体何したっていうんだ)
思い出すのは自らの幼少期。
右目を無くした。
たったそれだけのことで政宗は母親に疎まれ、『化け物』と罵られた。
あの頃の自分と目の前の雪月が重なって見えた。
(くそっ...)
幻影と過去、そして怒りを振り払うように政宗は雪月の頭をわしわしと撫で回した。
「...わかったか?」
「......あい」
「ん。偉いな。ほら、もっと食え」
政宗は残っていた羊羮を雪月の口許に運ぼうとしたが、何故か雪月は口を開けない。
「どうした?」
「...の?」
「ん?」
「...たべ、ないの...?」
「は?」
「だって、ゆづき、ばっか...」
「(...つまりあれか?自分ばっかり食えねぇってことか?)じゃあ俺にも『あーん』してくれるのか?」
「あい」
「(即答かよ...)ん、じゃ、あーん」
政宗に羊羮を食べさせた雪月は心なしか嬉しそうだ。
(一人で食うっつーのも、つまんねぇもんな...)