第6章 ひでしゃん
「知らなかったですむ話じゃ無いけど...本当にごめんな」
雪月は思わず顔をあげた。そこには、とても辛そうな表情を浮かべている秀吉の顔があった。が、一瞬の内にそれは笑顔になる。
「詫びにはならないかも知れないけど、これからは俺に甘やかされろ。いいな雪月」
「?」
『甘やかす』の意味も知らないのか首を傾げる雪月に秀吉は苦笑しながら頭を撫でた。
「飯持ってきたけど、食べるか?」
秀吉の傍らには盆に乗った小鍋が。
きゅるるるるるぅ~
ナイスタイミングで雪月のお腹がなり、雪月は赤面し、秀吉は笑った。
「ほら、あーんしろ」
小鍋の中身を匙で掬い、冷ましてから雪月の口元に持っていく秀吉。
「ぁ、の...!わたし、できる、から...」
「だーめーだ、さっきも言っただろ、俺に甘やかされろって」
「ぅ...」
雪月の『自分で出来るから』発言も一刀両断。
堪忍したのか、雪月は口を開けた。
「(ぱくり、もぐもぐ...)...!」
一口食べると、美味しかったのか目を輝かせる雪月。
「美味いか?」
「(こくこく!)」
勢いよく頷く雪月。
「誰も取らないから、ゆっくり食えよ。ほら、あーん」
「(あーん)」
(なんか子狐っていうより、雛鳥だな...)
数分後。
秀吉の手元には空になった小鍋が。
「よしよし、全部食べれたな。偉い偉い」
またまたぽんぽんと雪月の頭を撫でる秀吉。
「ぁ、の...」
「ん?どうした?」
「ぁ、あい、が、と...」
拙いながらも伝えられた言葉、そして、小さくはにかんだ顔。
(雪月の笑った顔、初めて見たな...)
「俺がしたくてやってるんだ、礼を言われることでもない...でも、ありがとな」
「あ、と...」
「ん?」
「なま、ぇ...おしえ、て、くだしゃい」
昨夜何度も自分の名前を他の武将達が呼んでいた筈だが、雪月も半分混乱した中にいたのだ。覚えてなくてもしょうがない。