第16章 世間は狭い
「この間は迷惑かけちゃってごめんなさい…」
「そんな気にしなくていいんだよ? 困った時はお互い様だよ」
ある日のお昼休み、私は職場の近所にあるカフェで花音ちゃんとランチを食べていた。今は花音ちゃんも仕事が落ち着いているらしい。
「うん…」
「あれから旦那さんはどうだった?」
「え? あ、その…すごい抱きしめられて…」
申し訳なさそうな表情から顔を赤くして恥ずかしそうになったところを見るとどうやら上手くいっているらしい。
「…すごく、幸せだった」
ここしばらくは夫婦共に仕事が忙しくてすれ違っていると飲み会の時に話していた花音ちゃん。それを聞きながら私は自分の時のことを思い出していた。どうにか紅郎くんに思いっきり仕事して欲しくて、一緒にいられる時間を少しでも伸ばしたくて自分なりに頑張ったけど、伝えないとわかってもらえないことがよくわかった。
「言いたいこと言えた?」
「少しだけ…」
「そっか。よかったね」
「うん」
嬉しそうに笑う花音ちゃんは可愛くて、微笑ましかった。
この間お店に来てくれた時は元気がなくて…
ーーー 私、奥さん失格かも… ーーー
目に涙を貯めて今にも泣きそうな花音ちゃんを見るのはとてもつらかったから思い切って夜誘ったのだ。幸い紅郎くんも帰りが遅いと連絡があったし、美咲ちゃんたちも来てくれた。
「あやちゃん、聞いてくれてありがとう」
「それで花音ちゃんが元気になってくれるならいつだって聞くよ」
「…私も、あやちゃんがつらいときお話聞くね? そしたらあやちゃんのこと助けられるよね?」
「ありがとう。すごい嬉しい」
お互い笑顔で笑いあって、私達は楽しいランチを過ごしたのでした。