第1章 焦がれるは…
俺の嫁さんは、恐らく世間的に見たら誰もが嫁にしたい彼女にしたいであろう、そんな奴だ。
家事は一通り出来るし、見た目は小柄で可愛らしいが中身はとってもしっかりしている。そんな嫁さんの話をすれば、誰もが羨ましがるが俺としては1つだけ腑に落ちないところがある。結婚してからこれまで、隙らしい隙を見せないことだ。
「ただいま」
「おかえりなさい。お仕事お疲れ様」
「おう…今日も遅かったのか?」
「うん。新人さんの指導してて…」
「あんま無理すんなよ?」
「そのセリフ、そのまま返します」
夜遅くに帰れば、ちょうど風呂上がりだったらしく頭にタオルを被って寝巻きのワンピース姿で迎えてくれた。
「ご飯食べる?」
「飯は食べたから俺も風呂入って休む。片付けはしとくから先に休んどけ」
「うん…」
「髪、乾かせよ」
「今から乾かすよ」
嫁さんも就職して、今後時間がとりづらくなって会える回数が減るならばいっそ生活リズムが違っても一緒に住んで顔を見れるようにしようと言って結婚した。
結婚してしばらく経つが、嫁さんはなかなか隙を見せない。オフが重なれば2人でのんびりするが、寝坊はしないし、家事はやれるだけやってしまうから俺が起きた頃にはリビングでお茶を飲んでるか飯の支度をしてるか趣味の手芸をしてるほどだ。
もう少し、俺の前では肩の力を抜いてくれやしないかと思ってしまうのだ。
「あや?」
「ん、ごめん…」
「仕事頑張ってんだ。眠くて当たり前だろ」
「ん…でも…」
風呂から上がって寝室に入れば、嫁さんは布団に入ってうとうとしながらファッション誌を読んでいた。
「いいから、もう寝るぞ」
ファッション誌を取り上げて適当なところに置いて、部屋の電気をリモコンで消してから嫁さんを懐に抱き込んだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい…」
そういやほとんど一緒に寝てるから、先に寝てるところなんて見たことねぇな…
1人だとやっぱ肩の力抜けて過ごせてんのかな…
明日から1週間、紅月のレギュラー番組の特番ロケでしばらく留守にすることになっている。準備は昨日のうちに終わっているから大丈夫だ。贅沢をいうなら嫁さんを抱いて気持ちを補充しておきたかったが、仕事で疲れているのは見てわかる。無理をさせる訳にはいかなかった。