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ゆるやかな速度で

第15章 13.距離


野宮さん改め由衣香ちゃんがマネージャーとして正式な入部を果たしてくれて私は更に充実した日々を送っていた。
由衣香ちゃんは手際よく動く素質がある子のようで、体験入部の時にある程度、白石くんたちに教わったことをこなせるような子だったので私はあまり教えることがなかった。

「【名前】先輩!」

それでも彼女は無邪気に私を慕ってくれていて、今も私が薄くなってしまったコートのライン引きをしていると駆け寄ってきてくれた。
私は一旦、ラインカーを停止させて彼女が私の傍まで来るのを待っていると彼女は器用に足元の線や用具入れなどを避けて最短距離で駆けてくる。
運動神経も良いのだなと感心してしまった。

「私も手伝います!」
「でも由衣香ちゃんにばかり負担かかったら駄目だよ。ちゃんと平等にやらないと…」
「ほなここは、取引しましょう!」
「取引?」

由衣香ちゃんの提案に私は首をかしげてしまう。
何か彼女と私とで平等に出来ることがあっただろうか?と思っていると、彼女はにっこりと微笑んで提案をする。

「私、細かい作業苦手なんです。特にスコアつけたりとか、メモしたりとかそれらをノートにまとめるの。あれめっちゃ時間かかっちゃって。それにライン引きしてた方が…ふぅくん見れるな…って。まぁ私情になっちゃいますけど。贔屓とかやないので目をつぶってもらえると有難いです」

その言葉に私は少しだけ固まってから、小さく笑ってしまう。
由衣香ちゃんの正直なところが可愛いと思ってしまったのだ。

「ふふふ。ごめんね、笑っちゃって。じゃあ交換お願いしようかな」
「はい!任せてください!ふぅくんに見惚れちゃう事はあるかもしれへんけど、ちゃんと仕事はするんで!」

私が置いていたラインカーをもって彼女はライン引きを開始する。
丁寧にラインを引きつつも、彼女の視線は時たま練習する1年の方へと向かう。
その視線を辿れば、野宮くんが一生懸命素振りをしていた。
由衣香ちゃんを再度見れば彼女の表情や目は恋する乙女そのもので微笑ましくなる。
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