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ゆるやかな速度で

第14章 12.羨望



「先輩にとって今、大事なことってなんですか?」
「え?」

考え込んでいた野宮さんから予想外の質問をされて私は言葉に詰まってしまう。
大事なこと……今、私にとって……。
その言葉を受け取って私は考え込む。

私が今大事なことって何になるのだろうか?

今…じゃなければ、もう少し色々な事が浮かんだかもしれない。
でも『今』と言われると、私は頭に浮かぶものは――。

「私、白石くんに感謝してるの。私にきっかけをくれた人だから。だから…おこがましいかもしれないし、私なんかじゃって思うけど、四天宝寺のテニス部のみんなが全国大会へ出て優勝することのお手伝いが私にとって今の大事なことかな」

私がそういうと野宮さんが私を見てニコッと笑って頷く。

「じゃあ私もその大事なことのお手伝いをさせてください。元々明日今後をどないするのか渡邊先生に報告する所やったんです」

そう言って野宮さんが立ち上がり勢いよく頭を私に向かって下げるので私も慌てて立ち上がり、彼女に頭を上げて欲しいとお願いをした。

「私の勘違いで先輩に不快な思いをさせてしまってごめんなさい。私、確かにふぅくんの傍におりたいって不純な気持ちはありますけど、絶対に私情は挟まんようにします。なのでこれからよろしくお願いします」

そう言いきってから彼女は頭をあげてくれた。
その表情は今まで見た彼女の表情の中で1番綺麗で何かが吹っ切れたかの様で自然で爽やかな笑顔で輝いていたのだった――。



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