第2章 静かな闘志
今年のインターハイ開催地は愛知県。私達は神奈川県代表なので前日入りすることとなり、新幹線に乗って宿泊施設までやって来た。各自荷物整理の後は自由時間となっていて、みんな軽く走りに行ったり、明日の試合相手である豊玉高校の映像をチェックしたり、各々好きなように過ごしていた。
私もスコアブックの整理など、出来ることから手を付け始める。大丈夫だ、みんな昨日までの調子はいい。あとは本番の明日きっちりといつも通りのプレーをするだけだ。不安な気持ちもあるけれど、三年間ともに頑張ってきたメンバーだから大丈夫だと思えた。いつも通りの空間に近付けるために、翔陽高校名物の応援部員達も遠征してくれたし、応援団長がしっかりと盛り上げてくれることだろう。
「月丘さん」
ロビーで作業をしている私の後ろから、その応援団長が声を掛けてきた。首からメガホンをぶら提げて「これから声出しの練習なんです」と張り切ってくれている。
「どうかした?」
「藤真くんが探してましたよ。そっちの廊下の奥にいました」
「…そう、ありがとう。行ってみるね」
藤真が私を探しているなんて今まで無かったことだから、少しドキドキとしてしまう。どこか体調が悪いとか、そういう事でなければいいんだけど。部員達とちょこちょこすれ違いながら廊下を進むと藤真の後ろ姿が見えた。
「藤真!」
「…先輩」
目をキョトンとさせてこちらを見つめるのはいつも通りの藤真だ。具合が悪そうな感じもない。良かった…ひとまず安心して重たい溜め息を吐く。
「どうした、溜め息なんか吐いて」
「……藤真が私を探してるって聞いたから、具合でも悪いのかと思って。焦るじゃん」
「明日本番だぜ?体調管理ぐらい出来てるに決まってるだろ」
「ですよねー」
藤真に限ってそんなことあるわけなかった。なんだ、心配して損したじゃないか。ほっと胸を撫で下ろすと藤真は不思議そうに私の顔を覗きながら突然話を切り出してきた。
「先輩時間ある?ちょっとその辺散歩しないか?」
…こういう時の藤真は強引で何か特別な威圧感がある。余裕たっぷりのその笑顔はとても後輩とは思えなくて、気付いたら私はコクンと一つだけ頷きを返していた。