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第4章 浮かんでくるのは君の顔


豊玉高校に大敗した私達は素早くクールダウンを済ませ、次の試合を行うチームに追い出される形で総合体育館を後にすることになった。一足早く体育館から去っていった藤真はというと、三針縫うほどの大怪我だったそうだ。救急車で藤真に付き添っていった顧問の先生の声は電話越しでも落ち込んだ様子が窺えた。藤真の家にも連絡を入れ、藤真は治療後にチームと合流することなくそのまま神奈川に帰ることになった。


一目でいいから、様子を見に行きたかったな。


搬送される直前までチームを気にかけていた藤真。必死に振り絞って出していた声がずっと頭から離れない。藤真には試合に負けたこと、もう伝わっているんだろうか。それを聞いた藤真は何を想うんだろう。やっぱり自分を責めてしまうんだろうか。藤真が悪いことなんて一つもないのに。たまたま相手選手にぶつけられた箇所が悪かっただけなのに。


試合後のロッカールームでは三年生達が静かにすすり泣く声だけが響いていた。それに釣られるように控えの二年生達も声を立てないように涙を流している光景に、思わず胸がグッと詰まる。私は選手じゃない。選手じゃないけれど、ここには三年間の想いが全て詰まっている。高校三年間の全てが。


10分ほどトイレで席を外していた斉藤くんがロッカールームに戻ってきたタイミングで総合体育館を出発することとなった。……斉藤くんの目元は赤い。ずっと泣いていたに違いないが、誰もそのことに触れる者はいなかった。


私は応援団長とも話をして、応援団には一足先に神奈川に帰ってもらうことにした。選手達は応援団には顔を合わせづらいだろう。何も恥じることなんてないんだけど、少しでも悔しい気持ちを薄めてあげたかった。


ここに来る時には藤真に持ってもらった荷物をまとめ、私は覇気を失った部員達の先頭に立ち、宿舎を目指す。もう一泊だけして明日の昼までには神奈川に帰る予定だ。


「…みんな、帰るよ」
「……おう」


後ろを振り返って部員達に声を掛ける。みんなの赤くなった目元を見て、私もグッと涙が込み上げてきたが必死に我慢した。斉藤くんだけが私に返事を返し、無言でぞろぞろと歩き出す。


私達に、もう来年は、ない。

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