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ドルフィンを待つ夜【インディゴの夜】

第1章 出会い


 会社帰りに渋谷駅東口で降りる。裏渋に行きつけのホストクラブがあるのだ。今日は給料日、しかも明日は休みだから、思いっきり……と言っても、一万円ちょっと散財すれば、ゆっくり楽しめる。
 通常のホストクラブでは考えられない、低い値段設定のホストクラブindigoは、クラブ内の雰囲気も、正統派ホストクラブとはかけ離れており、クラブふうな造りになっていて、DJやダンサーみたいな若者達がホストとして働いている。もっともそういう場所だからこそ、風音のような平凡なOLでも、イケメンと楽しく話して、美味しいお酒を飲んで、ちょっと気晴らししたい時に、気楽に通えるのだ。
 鼻歌混じりに歩いて行くと、目の前をだぶっとした服装をした小柄な若者が歩いていることに気付いた。
 風音の心臓がドキリと跳ねる。彼に近づこうと無意識に小走りになった。いつもバッグにつけているイルカのチャームがちりちりと鳴る。
「テツくん」
 思い切って声をかけると、若者は立ち止まり、振り返った。濡れたような大きな瞳が印象的な、ユニセックスな外見の青年だった。その見た目から、『可愛い』と言われることが多いらしいのだが、風音は不思議と彼を『可愛い』と感じたことがない。初対面から「うっす。テツって言います。よろしくっす」と少し照れたような笑みで、凜々しい挨拶をされたからだろうか。風音のイメージするテツは、最初から『格好良いイケメン』だった。
「風音ちゃん」
 テツがにこりと笑う。相変わらずイケメンだ。胸がとくとくと鳴るのを感じながら、「こんばんは」と笑い返す。
「これからindigoへ行くところだったの。テツくんは? この時間帯にお店にいないってことは、今日はお休み?」
 indigoのホストであるテツは、その外見に加えて、一本気かつ真面目な性格で、客にも仲間のホストからも気に入られており、現在はindigoナンバーワンホストのジョン太のヘルプを主に勤めている。もちろん、テツ目当ての指名客もそれなりにいたりする。風音もその一人だった。
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