第2章 罠
「は?」
何とも間抜けな声が出た。
「だから、旦那様は屋敷に着くなりここにいらして、”奏を守ってくれて本当にありがとう”ってお前が目を覚ますまでずーっと言われてたんだよ」
「それ……で……?」
「執事としては頭を下げ続けるしかないだろう」
ということは当然、信也をクビにするわけもなく。
早とちり、という奴である。
恥ずかしくなってきたが、信也の表情が曇った。
「信也?」
首を傾げて名前を呼ぶ。
「ごめん」
一呼吸おいて、信也は続けた。
「お前を本当の意味で守ってやれなかった。俺はっ! 俺は……何も、出来なかった……」
本当は今すぐにでも会社を潰したい。
殴り飛ばしたい。
でも、そんな事をすれば、奏の私生活に支障が確実に出る。
そんな事、するわけにはいかない。
信也にはただ謝る事しか出来なかった。