第6章 壁外調査に向けて
兵団の兵舎には様々な施設がある。
食堂、技工室、倉庫、購買、兵士詰所、宿舎、団長室、上官会議室…そして、講義や一般兵士に向けて作戦の説明がされる時に使用する、作戦会議室だ。
広い作戦会議室内にズラリとならんだ机に、先日入団したばかりの新兵が集められ座っていた。
私は集合時間よりもずいぶん前に到着していたので、比較的前方の席に座っていた。講義が始まるまでの間、スケッチブックに絵を描いていたのだ。
何かと忙しいけれど、少しでも時間を見つけては絵を描くようにしている。
訓練と同じで、絵も毎日描かなければ腕が落ちる。とにかく、どんなに短時間でもいいから毎日絵を描いた方がいい。
これは父さんから教えてもらった、大切なことの一つだ。
そんな風にして過ごしていると、本日の講義をしてくださる上官がいらっしゃった。
「お前達新兵には、この一ヶ月間で『長距離索敵陣形』を熟知してもらう!俺は講師を務めるネスだ。お前ら、気合い入れて頭に叩き込めよ!」
私たちに向かって、部屋の前方で大声を張り上げたのは、先日の新兵入団式の際に司会進行をしてくれたネス班長だ。
今日もやっぱり頭には布が巻かれていて、「気のいいおじさん感」が溢れ出ていた。
ネス班長の隣には、陣形を描いた大きなキャンバスが立てられていて、ネス班長はそれを指示棒で指し示しながら解説を始めた。
長距離索敵陣形は、エルヴィン団長が就任された数年前から運用が開始されたものだ。
この陣形を用いるようになってから、兵士達の生存率は飛躍的に伸びたと聞く。
今こうして説明を聞いているだけでも、どれだけ優れた理論であるかが、実戦の無い私にすら分かるのだから、それを考えたエルヴィン団長の頭脳というのは本当にすごい。
ああいう人のことを、『才覚者』と言うのだろう。