《モブサイ》サギ師のあなたに脱がされて (霊幻/R18)
第6章 温泉旅館でときめいて
《ゆめside》
「おい、ゆめ! こっちだ!」
声の主を探すと、駅のロータリーに止まった赤い軽自動車が目に入った。運転席から霊幻さんが顔を出している。
「霊幻さん! おはようございます!」
私は小さなボストンバッグを肩にかけると、車に駆けよった。
「おう! 乗れよ。なんだ、荷物はそれだけか?」
「はい。一泊ですし」
助手席側に回って乗り込む。
「そうか……」
席に座った私をひとしきり眺めると、霊幻さんは突然フッと頬を緩ませた。
「なんですか?」
「いや、別に……」
「ええっ! だって、今ニヤッとしたじゃないですか? 私、何か変ですか?」
改めて自分の格好を見直してみる。
ブラウスにスカート。シンプルすぎるかとも思ったけど、まだ日中は暑いから本格的に秋物を着る気にもなれない。一応、色だけでも秋らしくと思ってブラウン系を選んでみたんだけど……。
「別に変じゃねぇよ。さ、行くか」
霊幻さんは窓を閉めると、ハンドルを握る。
「ちょ、ちょっと待ってください! 教えてくださいよ! 気になるじゃないですか!」
「あーはいはい。大したことじゃないから気にすんな。なんかこういうのもいいなと思っただけだ」
「えっ、それってどういう――」
「いいから早くシートベルトを締めろ。出すぞ」
「は、はいっ!」
慌てて締めると、車はすぐに走り出した。
霊幻さんと『遠出のデートをしよう』と約束してから早数カ月。結局、互いの予定が合わないまま夏も終わってしまった。
霊幻さんなりになんとか休もうとはしてくれたみたいなんだけど、相変わらず相談所は客足が絶えず満員御礼状態。
そのまま夏休みに突入してしまい、私は私で大学の集中講義や免許合宿で忙しい毎日。デートどころかバイトにさえ出られなかった。
秋になって『このままじゃ一生デートできない』とさすがに霊幻さんも悟ったらしい。
『デートというか、もう旅行にしちまおう』と大学の休日に合わせて、相談所を臨時休業にしてくれた。もちろん依頼も全部断って。